耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

お化粧音痴だけどコスメを買うのは好き

高校生のとき初めて買った化粧品はコンシーラーだった。目の下のくまを隠したかったから。顔に色をぬることよりも先に顔の色を隠すことからスタートしたわたしのお化粧人生、教科書通りに手順を踏んで、枠からはみ出すことはない。

いや、ときにははみ出すこともある。それまでは不自然にならず目をおおきく見せてくれるペンシルタイプのアイライナーを使っていたのに、あるときから細く引けるリキッドアイライナーをじっさいの目じりよりも2ミリだけ長く書くようになったのは、乃木坂46のメイクをインターネットで見つけた画像で研究して真似いた五年くらい前だったか。まゆげはじっさいよりも細く整えるのが当然だと思っていたのに、太めの眉を眉マスカラで脱色しふんわりした雰囲気を装うのは雑誌アンドガールの宮田聡子ちゃんにあこがれて始めた。はみだすことで顔がいいかんじになることもあるのだ。

濃すぎる色をぬるとへんになる顔

たぶんお化粧をするとき一番たのしいのはアイシャドウとかチークとかリップとかカラフルなものを選んでいるときで、それ以外の場所は十年もやっていれば自分なりの定番ができてくるものである。だがわたしは初めてメイクをしたころあたりから「わたしは日焼けしてないけど黄色っぽい肌だからコーラルピンク系の色がなじむし、濃すぎる色をぬると浮き上がってへんになる顔」と思い込んで生きてきた。自分の結婚式をやるちょっと前、思いつく限りの美容をやってみようとパーソナルカラー診断(自分の肌や目や髪の色から一番顔を映えさせる色をプロが診断してくれる)に行ってみたが、その結果はイエベ春パステル、つまりコーラルピンク系の淡いトーンの色が似あいますよということで、まったく自己分析はまちがっていなかった。

自立した素敵な女性が赤いルージュをさっそうとまとっているのにあこがれて赤リップをぬってみたことがあるけど、口なんかあかいね、って言われて終わりである。青みピンクはあきらめるとしても、濃い口紅をどうしても顔にぬってみたいよ~。クレオパトラみたいなメイクがしたい。でも何をどうぬったらいいのかわからないから、へんにならない濃い色があるのか知りたい。パーソナルカラー診断をしたらたぶんイエベ春かもしれないけど、だとしたら朱色っぽい色が似あうはず…と思ったのにわたしに似合うのはパステル系ですか。第二の選択肢としてブルベサマーの淡いトーンの色をおすすめされたし、じっさいオフィスやスーツなどを着るタイミングには役立つアドバイスをもらえたけど、濃い色を顔にぬりたいというわたしの隠れた欲望はまったく満たされなかった。

インターネットでコスメレビューなどをみているとパーソナルカラー診断は互いに顔を見たことのない視覚も感性も違うみんなが素敵な色のすすめあいをするときのものさしとしてたいそう役に立っている。しかしそれにしてもだいたいのタイプ分けがあるだけで、そのカテゴリに入った人がみんな同じ化粧品が似合うというわけではない。確かに髪の色などはしょっちゅう変更するし、顔立ちや服装も含めた全身の雰囲気の影響もある。くちびるだけマリリン・モンローみたいなメイクをしたって服装がおとなしめのオフィスカジュアルだったら意味がないわけだ。

顔にブラウンをぬる秋

そんなことを考えていると秋になった。まだ残暑はつづいているが精神的には秋である。去年の秋ぐらいから精神の世界ではテラコッタとかブラウンカラーが流行っているような印象があるが、今年の新色カタログをちらっと見ると確かにブラウン、ブラウン、ブラウン、ブラウンがいっぱいである。ブラウンって、こんなにバリエーションがある色だったのか。たしかに単に茶色って言われてもお茶の色っていろいろありますものね。三分で出せばいいのに十分以上放置しちゃったティーバッグの色と、お洒落なカフェで出してくださるお茶の色ではぜんぜんちがう。

しかしただでさえ濃い色をぬるとへんになるって言ってるのに、くちびるをブラウンにする勇気はちょっとないな。と思っていたわたしだが、ことしの春からものすごく気に入って毎日使っているリップの色名をみてみるとなんと、「ピーチィブラウン」と書いている。

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でもこれ、じつは看板に偽りありで、塗ると明るいコーラルベージュみたいになるのです。ラメも入っているおかげで顔が一瞬でパアッと明るくなる。朝はだいたい貧血でくちびるが色を失っているわたしにはたいへんありがたい存在。スルスルとぬれるから寝坊して急いでいても大丈夫だし、マットでべたつかないから髪をふりみだして駅まで自転車爆走させてもくちびるに髪がひっつかない。だけど色が明るすぎるがゆえに、夏までの恩も忘れて九月に入ったいまではもうすこし落ち着きがほしいかなとは思っていた。

そういうわけでブラウンっていってもいろいろあるものだな、と化粧品売り場を徘徊していたとき、出会ってしまった、エトヴォスのクレヨンルージュ ヌードテラコッタに。

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正確にいうとブラウンではないのだが。濃い色をぬるとへんになると思っていたわたしの顔が、これをぬるととってもいまどきのオシャレさんみたいなかんじになるのだ。これまで「色がオシャレってどういうこと??」と思っていたお化粧音痴だけど、これを塗った瞬間意味がわかった。オレンジ系の色ってカジュアルだけどこれは落ち着いた印象を与えるし、顔にもともとある色ではないので「あえてやってる」感が出る、それなのにクッキリしすぎず顔から浮き上がらない。おとなしいベージュなどをぬって口を顔になじませるよりも、このくちびるがいろんな形に動くのを見たいと思えるような色だ。それが自分の口なのだから、くちびるは好きなだけ動かし放題。自分の顔を動かすのがたのしくて仕方ない。

こうしてかねてよりの念願だった「濃い色リップをぬると顔が変化する現象」、いわゆるメイクアップというものを体験することができた。顔の上に自分の好きな色があると、自分を肯定できる感じがとてもたのしい。「濃い色が似合わなかった」というよりも「たまたまぬったことのある似合わない色が好きになれなかった」ということではないだろうか。

これを機に去年の秋に買ったリップをひっぱりだしてきたのだけど、くちびる全体的にぐりぐりぬるのではなくて、内側からすこしずつ色をつけて指やくちびるどうしでなじませるようにしてぬるとなかなかいいかんじになった(インターネットで見たやりかた)。しかしこれも好きな色というよりは、コレクションの中でいちばん使いやすそうな色*1と思って選んだのであり、せっかくの限定品なら心ひかれる色を選べばよかった。こうしてわたしの化粧品売り場放浪の日々は続くのである。

*1:ロレアルパリのレザーコレクション294番、ロレアルパリがまたなんかおもしろいことやっとるやないか~というぐらいの勢いで買った。f:id:sanasanagi:20190913152124j:image