8月のまとめ、書いたつもりがまだだった。最近観葉植物を眺めるのにハマっていて読書がおろそかになっている。
小説
『星の時』クラリッセ・リスペクトル/福嶋 伸洋 訳
難解で今何が起こってるのか見失いがちだが文章の力で読み進められてしまう本であった……。訳者あとがきによると著者本人は翻訳のさいには一語一句直訳で語順すら変えずに訳すよう望んでいたらしいが、あの世で作者に「口も利いてもらえないかもしれない」覚悟で翻訳をして下さった訳者の方には頭が上がらない。
小説にたいしてなにかフェミニズム的な読み方をしようとすると意志の強い、自分を客観視している女性を賛美しがちだが、彼女のように「いま」だけをみて生をまっとうするということもまた輝かしい生き方なのだ、だけどそれを表現するためには、人間の生き方というものを相対化して斜めからも前後からも上からも中からも見ようとしてしまう文章を用いざるを得ない人間の哀しさを思った。だけどこの哀しき文章の使い手もまた作中にある架空の男性作家であるという入れ子構造もおもしろい。
『とんこつQ&A』今村夏子
面白かったー!という読了後の勢いそのまま書いた感想↓
『教授の家』ウィラ・キャザー/加藤 洋子 訳
最近はまっているウィラ・キャザーの新訳が美しい装丁の本で出た幸せ……
『マイ・アントニーア』『迷える夫人』のような他者の視点から主人公を語る書き方の名残も見受けられつつ、『大司教に死来る』にもあったように、中年から老齢期を迎えてやや厭世的になりつつ、文学の書き手としての生き方を再度捉え直すような、ちょうどその混合のような作風と感じた。
『美しい夏』パヴェーゼ
これもまた新訳が出たばかり。短いので翻訳により趣が異なるのを読み比べることもできて楽しかった。
まんが
『火の鳥』手塚治虫
小学生ぶりの再読。だけど小学校の図書館で読んだときって、たまたま誰にも借りられてない巻を順不同で読まざるをえない環境だったし、読めてなかった巻もあったかもしれない…。
生命はただ生きて死ぬだけのもので、それなのになぜ人間には自我と欲望があるのか。宇宙全体がひとつの生命であるのに、なぜ「個人」なんて幻想にこんなに必死にしがみついて、争いを繰り返し、「自分だけが生き残りたい」という欲にすがりついてしまうのか……壮大な気持ちのなかに放り出される。
いっぽうで、「自分が」という欲があるからこそ、人間はおもしろくてあわれで可愛い、という相反する眼差しも作品全体に通底している。細やかな、ユーモアあふれる漫画描写が面白い。だけどそれは、あくまで個人の懸命に生きる弱いものへ向ける眼差しの優しさがあるからであって、一貫して「権力はむなしい」ということを言い続けている作品だと思います。
新書
『継体天皇』河内春人
6世紀初頭に即位した継体天皇。先代の大王との血縁が不明な北陸の有力豪族の出身であったという。皇位継承問題がホットな議論なこともあり話題になっていた本だと思われるが、個人的には「血筋」とかいう制度に躍起になるのってほんとうに虚しい……という気持ちを新たにすることになった。古代の社会秩序においては何らかの方策で権力を維持する必要があったのだろうし、血筋なんてそのために恣意的に定めた制度にすぎない。しかしなぜそんな大義のもとで現代の、民主主義時代の人権がおびやかされねばならんのだ…と思ってしまう。
それにしても、文章による記録がほとんど残っていない時代の歴史研究ってただでさえヒントが少ないうえに考古学的なアプローチを組み合わせる必要があって大変そうだ。それでも確からしい事実に向き合っておられる研究者の姿勢に頭が下がる。関西在住ということもあり、古代の地理関係がいまの自分の土地感覚に突然つながる瞬間があるのもおもしろかった。
『詩のこころを読む』茨木のり子
ご多分にもれずわたくしもミナ・ペルホネンカバーに釣られて茨木のり子を買いました…ずっと読みたいと思っていたけど永遠の名著、永年のベストセラーすぎて逆に後回しにしてしまっていた『詩のこころを読む』を読む機会を与えていただいた。
茨木のり子の考える良い詩とは「飛翔があること」という言葉が腑に落ちると同時に意外でもあった。
舞台
帝劇コンサート 神戸
久しぶりにミュージカルっていいなあ、またもっとミュージカル観たいなぁと思ったコンサートでした。コンサートとして楽しかったのはもちろんなのだけど、なんとなく周りの人がわたしと同じような熱量のミュージカル好きっぽいな~という妄想込みの共感を勝手に肌で感じ、ストレスなく観られる感じでよかった。
最近、舞台というエンタメにハマり始めた頃とはまた違う意味で「同じ舞台はもう二度とないんだな…」ということを実感しはじめていて…。わたしの人生比で一番ミュージカルを見ていたときからすると、当時熱狂した役者さんたちもやっぱり年齢も重ねているし、人間だから体調も一定ではなくて、同じ役をまた観たくても叶わないことだって多い。当時だってわかってたからこそ後悔しないように財力と時間の許す限り通ったつもりだったけど、人気演目であるほど何度見ても自分の中で思い出補正されたあの公演と今目の前の舞台との競合が発生して、脳が勝手にエラー起こすみたいなことがある……。
今回のコンサート、ゲスト出演の城田優が永年のファンであるという堂本光一と「愛のかたまり」をものすごい幸せそうな顔で歌う夢が叶っているのを満面の微笑みで見守ったのですが、それはそれとして、役者も帝劇もわたし自身も、それぞれの人生があり、積み重ねた年月がある…とちょっと俯瞰して思いを馳せてしまったりもした。
いっぽうで出演者で唯一初めて拝見した岡宮来夢さんという若手の子がめっちゃたのしそうなのもほっこり。ルーツメドレーの中でこの方が刀剣乱舞の殺陣をちらっとやるシーンがあったのですが刀が美しく見える太刀捌きで美しかった。One Day Moreでアンジョパートやってたのもしっくりきていて、1789かロミジュリか何か舞台でいつか見れたらいいな〜と思ったら既にどっちも終わっていた……。世間にうとすぎる。
ところで今回初めて赴いたGLIONアリーナというコンサート会場、これが神戸ポートアイランドという海の上の埋立地にある。ポートタワーもオリエンタルホテルのところも見えて近くには貨物船が停泊していて、神戸空港からは飛行機が発着して、夜公演の前後で夕暮れの海と夜の海、両方ながめられてエモーショナルなロケーションだった。コンサートの思い出がまるごと青春の彩りの記憶になりそうな場所。
ミュージカル「AGATHA」
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