本日のキャスト(敬称略)
マリー・アントワネット:笹本玲奈
マルグリット:ソニン
フェルセン伯爵:古川雄大
ルイ16世:佐藤隆紀
ようやく見られた笹本さん・ソニンさんの組み合わせ……「憎しみの瞳」が最高だった。花總さんのマリーのときは「睨まれ」「憎まれ」る王妃で、憎しみを「受け止めなければならない」という運命に否応なく押し流されてしまったことへの哀しみを感じていたのだけど、笹本さんのマリーは怒りの盾で憎しみを跳ね返す。ソニンさんのマルグリットとの対決は、何物をも通さない盾と、あらゆるものを突き破る矛の拮抗を見守っているかのような高揚感だった。少年マンガの戦いシーンを見て興奮している小学生男児になった気分。
このシーンがこんなにすきな理由は、自分の誇りをもって立っている二人の女の強さに憧れるからだろう。「何をしているの?」「手紙を整理していただけです」「それはあなたの仕事ではないわ」「これも私の仕事です」というあのやりとり。わたしがもし言われたならその瞬間ビクッとして、悪いか悪くないかよりも先に反射的に謝ってしまいそうだが、この二人の場合はそこから直接対決がはじまる。これは彼女たちが自分の生きざまを護るための闘いだ。わたし個人はできることなら戦わずに生きていたいし、他人の人生を否定したくなどない。だがそれは人間の平等が当たり前のものだと認識しているからこそ言える、ぬるま湯の中の怠惰なつぶやきにすぎない。彼女らが互いに同じ高さで睨み合い、個人対個人が傷つけあいながらもぶつかることに、憧れにも似た胸の高鳴りすら覚えてしまう。
それはもしかすると、あらかじめ結論の決まった裁判や処刑を娯楽のように眺める民衆と同じように、安全地帯から他人の生の感情や生涯を消費しているだけなのかもしれない。そんな思いは拭えないながらも、自分の身体を犠牲にしてでも毎回の公演にぶつかっていく演者やスタッフの方への敬意をいだきながら、劇場へ足を運ぶことをやめられない。
この回の公演は特に、精神を清く保って生きること、について思わずにはいられない回だった。ソニンさんのマルグリットは自分が愛されたいとか仕返しをしたいとかいうエゴを封じ込めてでも、自分の正しいと思うことをしようとする、正義の寓意みたいな人間だと思う。あなたのせいで国王が死んだと罵られても黙ってフェルセンを案内して扉の影で泣き、王妃への恨みを捨てきれないながらも生身のマリー・アントワネットがただ一人の人間であることに向き合おうとする。彼女がマリーの声を耳にして神の赦しを得たかのように天を仰ぐラストシーンは、何度観ても胸がいっぱいになるのだ。
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