耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

壁一面の本棚を置きたい、という欲望

壁一面の本棚が欲しい!!と12月のある日突然思いついてから、他のすべての物欲は消え、そのことしか考えられなくなってしまった。

わたしが普段自分だけのスペースとして使っている部屋に、一人暮らしのときから使っている小さな本棚を移動してきたのが去年の秋のこと。そのときは、ここはわたしひとりの家ではないのだし、あまりたくさんの本を置くのもどうかと思うから、手元に置いておきたい本だけのマイリトル本棚ということにしよう、と思っていた。

だけどよく考えてみると、デジタルで文章を保存していればいくらでも検索できるこの時代、わざわざ紙の本を持っている意味ってなんだろう。手を伸ばせばすぐ届くところに好きな本があって、ふとした瞬間にぱらぱらと開くことができる、そんな時間のことじゃないのか。

マイリトル本棚ではもはや足りなかった。

ぎゅうぎゅうに詰め込めばもっと入らないこともないけれど、それでは「ふとした瞬間に」本が取れない。

さらに年末に久々に美術展へ行ったことで、展覧会の図録も読み返せる場所に置きたいなあという気持ちがわいてきた。

今のマイリトル本棚は、単行本と文庫本のサイズに特化していて図録とかパンフレットのような大判本が置けない。こういうビジュアル系の書籍こそ、買ったからには頻繁に手に取って開きたいのに、今は物置部屋の大きな本棚の一番下にしまわれている。そして、どうせ見ないからという理由でもはやパンフレットや図録を買わなくなってしまった日々…。本棚を変えれば、また見ることがあるかもしれないのに……
 
わたしはさっそく壁の寸法を測り、持っている本の量を見積りはじめた。(このやりかたは、『私の本棚』というアンソロジーに載っている小野不由美氏のエッセイで学んだ。)今年壁一面の本棚を置いた場合、いまある本を収めた上で、背表紙が平均1センチの本を年に30冊ずつ増やしたとして向こう20年分くらいの余裕はあることがわかった。

家族の本のことは考えなかった場合だが。
 
今もっている本を詰め込んでもスペースの余る棚…。わたしは棚が来た後のことを想像した。そういえば、今まで買いたいけどかさばるからという理由であきらめていた本がある。特に漫画。とりあえず子どもが10歳になるころまでに揃えたいシリーズがいろいろあるのだ。『ブラックジャック』はわたしの実家にあるからいいとして、『火の鳥』は実家にないからうちに買おう、とか。

そして「わたしが読みたいからという理由で買うけど、他の人も読んでいいよ。むしろ読んで欲しい本」のリストのことを考えはじめた。

漫画日本の歴史とか岩波少年文庫とかも置きたいな〜



 

ところで、肝心の棚はどうやって入手するのか。

本当はDIYができればそれに越したことはない。大体インターネットなどで検索すると、理想の本棚をゲットした!と言い切っている人はDIY(か、大工さんに作ってもらったかのどちらか)である。

面倒だ………。というメンタル面の課題は乗り越えたとする。それでも、私という個人の人間性の問題がある。だいたい家具を組み立てると、細かい手間を怠って手順書の注意事項をとばしたりし、仕上がりが微妙になりがちなのだ。既製品の組立作業ですら失敗するのだからDIYなんて途中で挫折するに決まっている。

組み立てが簡単で、天井までの高さのあるシンプルな既製品の本棚…。さらに、壁にはコンセントがあるので背板のないタイプのものが良い。

うーん……、他の人はどんな本棚にしているのかな?  参考にしようとSNSで検索してみることにする。

ふつうに暮らしていると本を大量に所有している人がいるなんて分からないものだ。一体どこにこんなたくさんの本がと思うくらい本をたくさん持っている人がいる。だけど意外と天井までの本棚を置いている人が少ない。きっとみんな本を読むのに忙しいのだろう。

そんななか、燦然と輝くカシマカスタムの存在。

ameblo.jp

 

あの、鹿島茂氏が自らプロデュースした本棚である。一般人にも手の届くレベルの単価で売っていて、何より組立不要というのがとてもいい。

壁の大きさもカシマカスタム3竿でほとんどピッタリだったし、ちょうどいいのでは!?

わたしはかなりカシマカスタムを買う方向に傾き、念のための比較案として別の候補を探した。

 

しかしそこで、第二の案として出てきたマルゲリータの本棚に目を奪われる。

www.margherita.jp

このマルゲリータという本棚は、Googleの検索結果に自ら「おしゃれな本棚」と謳ってしまうくらいでなんとなく見た目がオシャレだし、シンプルなだけに汎用性があるし、本がたくさんあってもスッキリ見えるというのがいい。

調べてみると言動に問題のある男性YouTuber(?)が愛用しているという情報が出てくるのがやや気になったが、まあ使うもの全てに対して「○○さんと一緒なのは…」とか考えていたら有名企業のものは全然買えなくなってしまうし、気にしないことにする。気にしたとしても、それ以上に素敵な方の使用例がたくさん出てきたのでプラスマイナスすればプラスである。

よし、これにしよう。買い物はだいたい直感で決めるわたしは、これからきっとこれを買うんだろうなという予感につつまれた。

ところが、いざポチるとなると、本棚の奥行が18cm、25cm、35cmと3パターンも用意されていることにとまどいを覚える。

 

そもそも本を前後2列にするのが嫌で、前後に並べずに置ける本棚を考えていた。(その点カシマカスタムもコンセプトに包含済みで、奥行きは単行本の幅に合わせてある)だが、よく考えるとわたしは舞台のパンフレットとかも置きたいのだし……いや、カシマカスタムはそこも織り込み済みで下の方の棚だけ少し奥行きが広くなっているのだよね。でもいずれにしても飛び出すのは飛び出す。うん…そこがじつはちょっと気になっていたんですよ。となるとこのマルゲリータを買うとするなら、その点を解消するべく奥行きのあるバージョンにするか…。とすると、文庫本などは前後に置くことにはなる……。しかしそうすれば最初の見積もりよりも省スペースで本がたくさんしまえるから、まだ本があまりなくて子どもが小さいうちは、余ったスペースを本と子どもの物の収納にも使えるかも。そして後年子どもが自分の部屋を持つようになったら、全部本棚にするみたいな柔軟な使い方ができるのでは!? でも、奥行きのある棚を買うとやんちゃな年齢の子どもは棚をよじ登ってしまうらしい…。そんなことがあってもしものことがあったら困る。しかし、観察するに、うちにいる子どもは棚をよじ登るようなことをしそうなキャラには見えないのだが…(2歳手前ぐらいになっても、公園や道端のちょっとした段差を移動するのに慎重に手をついてのぼりおりしていたくらいだ)。でもまだ物心つくまでの数年で性格が変わるかもしれないし、やはり今はまだ本棚を買うべきときではないのか…

 

以上のようにいろいろと雑念がうまれた結果、半年くらい本棚を買うか悩んだ。

どちらの本棚を買うとしても、わたしにとっては高価であることには変わりない。本棚のためにお金をそんなに使うよりも本を買った方がいいのではないか……

それこそ子どもに絵本でも買ってあげたほうがいいのでは……

だが絵本をこのままどんどん買うと次には収納する場所が……

堂々めぐりの思考につかれたある日のこと、突然「エイヤー!!」と楽天でポチってしまった。

最初は値段にびびっていた夫が、「もう買ったらいいんじゃない?」みたいな雰囲気を出しはじめたのも後押しになった。(おそらく、妻が毎日毎日本棚を買うか買わないか…という話ばかりしてくる家庭の状況に嫌気がさしてきたのだろう)

結局、「もし買うならこれだな」を決めてしまった後のいちばんの敵は自分自身だ。「わたしはこんな高価な本棚を持つに値する人間なのか?」「わたしなんかがこんなにたくさんの本を持っていていいのだろうか?」と問いかけてくる小人が頭のまわりをぐるぐる回っていた。

最終的には、「いや本棚に"持つに値する"とか関係ないやろ、残高と、値段に見合うだけの見返りがあるかどうかやろ」と思って買っちゃったのだけど。

持っていていいも悪いも、わたしはこれからも本を買い続けるだろうし、本が増えるたびにいちいち収納場所に悩み、棚を買い足すか悩み、どんな棚を買うか買ってどこに置くか悩み、本棚を買い足したら買い足したで、宅配屋さんと受け取り日時の電話をして受け取ってえっさえっさ玄関から運び込み、夫と予定を合わせて休日にえっさえっさ組み立てて……みたいなことを毎回やるくらいならええい、もう一番でかいやつを買ってしまえ!!!というわけなのだ。



これだけ悩んで欲しくて買ったというのに、本棚が届くという日の前日はちょっとめんどくさくなって、明日組み立てをするモチベーションがあるかな?と不安になった。

とはいえ、夫の休暇もそのために確保してあったため、絶対にこの日に組み立てなくてはならない。

モチベーションを上げるため、本棚から『私の本棚』をもう一度取り出して読んだ。

以前読んだときは、所持している本の厚みから必要な本棚のサイズを算出するという小野不由美氏の手法にただただ感心していたのだが
今読み直すと、南伸坊さんの"やたらと本棚の本を並べ替えては、ああでもない、こうでもない、とやっている怪しい趣味"という記述に全面的な共感を覚える。

そうなのだ。わたしにとっての本棚はただ読了本の収納庫というだけではなく、自分の頭の中にある本たちを一望する地図みたいなものでもある。

それが一望できたからといって何?という気も、まあしなくはないけど、「ただそれがうれしいから」としかいいようがない。

でも「ただそれがうれしいから」のために我々はおいしいものを食べ、他人へ贈り物をし、読書を楽しみ、知らない土地へ旅行し、子どもを育てたりしている。

どんどんうれしいことをやっていこう。

 

マルゲリータの本棚は、シンプルなつくりゆえに組立もかんたんで、2人がかりで1時間程度で出来上がった。

ただし背が高く奥行きがあるだけに、壁に固定する転倒防止金具をつけるのには難儀したので、その点はご注意。

本棚ができあがったお祝いとして、夫といっしょに近所のエスニック食堂へ行き、ランチをおごった。

 

ここで最後にうつくしくととのえられた本棚(完成形)の写真でもアップしたいところだが、 いざスペースに余裕があるとなると、本以外の小物やら何やらを雑然と入れてしまい、全然他人に見せびらかしたい雰囲気にならない。

しかしそれでは残念なので、一番好きな1コマだけを写真に撮ってお伝えします。

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ここはわたしが心の中で「〈女の一生〉棚」と名付けている棚で、さまざまな数奇な女の一生を覗くことができる本が集まっている棚です。

好きな本ばかりだが、やっぱり前後にせずに並べられたらもっと良かったな〜。