耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

最近読んだ漫画など 2021年春夏

急に一気に読んだり全然読まなかったり、感想を書いたり書かなかったりしている読了漫画メモ。今年読んだ漫画について書きたい分だけゆるく書く。いつものようにネタバレは配慮していないので、これから読もうと思ってる作品があれば薄目でスクロールしてくださいね。

 

ゴールデンカムイ

ご多分に漏れず全話無料キャンペーンで読みました。本当に面白い。

一癖も二癖もある登場人物たちが敵になったり味方になったりしながらあっちやこっちにウロウロ旅する物語が読者を全く退屈させず置いてけぼりにすることなく展開されているだけでもすごいし、そこに加えて北海道の大自然アイヌ文化の知識を(相当なインパクトのある数々のエピソードで)盛り込んで読者を飽きさせない。さらには古今東西の絵画・映画・テレビ番組などのオマージュを盛り込み時にはそこに意味まで持たせるって何事か…。これはハマる人続出するわ。しかし暴力描写がきついのと下ネタが多いので、誰にでも気軽にオススメするのはちょっとためらう。

物語としてはこれまたいろんな読み方をする人がいると思うのだけど、わたしが真っ先に思ったのはとことん「父と子」の物語なんだなということ。そして「父と子」って言葉には結構いろんな意味が含まれているなという気付き。血縁の父と子のエピソードはアシリパさんはじめ何人ものキャラクターで描かれているけど(今よりずっと「父」が大きな存在だったはずの明治という時代背景はそのために設定されたのかと思うくらい)、上司と部下ってある意味では「父と子」の似姿なんだな、とも。

だから(ここからかなりネタバレなんですが)血縁の子を失い、日露戦争で地獄をくぐり抜けた鶴見中尉が、何度も聖母マリアに擬せられて描かれるのにも意味があるのかなと思う。聖母マリアって、そもそも相当理不尽な目にあってるじゃないですか?わたしがたまたま最近出産したからそう思うだけなのかもしれないけど、「あなたの子は選ばれし子で、人を救うための犠牲となるために生まれてくるのだ」って産む前から運命づけられ、そしてその通りに苦しみを負って死ぬ。別に全世界から崇められなくていい、名を残したりしなくていいから、ただ本人がすこしでも幸せに人生を全うして欲しいのが親心なのに。そのかんじ、軍隊に子を送り出す親の気持ちを連想するんですよね。自分が使命を果たす過程で子を亡くした鶴見中尉は、新天地で新たな「父と子」の関係を作ろうとしているんじゃないか?

…と、ここまで書いてはみたものの、やっぱりちょっとしっくりこないかも…。「父」の立場が持つ矛盾みたいなもののせいなのかな。なんというか、子を失えば悲しいのは人間として当然なのに、単に悲しみを表現することを社会が許さない空気がある(あった)のが「父」である、という気がする。つまり鯉登の父みたいに、本当は悲しくても大義の前では「死んでこい」と言わざるをえないのが「父」なのかなって。だから鶴見中尉の本心の深いところの本音は作中でもはっきりとはしないし、もしかすると本人ですら自覚してないのかもしれない。「死ぬな」と言いたくなるはずの愛情による結びつきを、「死ね」と言うための支配に使っている、その両立が成り立ってしまっているのが恐ろしい。一個人としての人格、軍人としての人格、上司としての人格。だれかを愛する気持ちと、父とは強くあらねばならないという刷り込みの間に齟齬があるから。

国家と国民だって「父と子」みたいなもので「保護するもの、されるもの」の関係のはずなのに、いつのまにか「お国のために」の犠牲がまかり通ってしまった。なぜ我々がそうなってしまったのか、その根本である明治日本人の心性を見る、という読み方もできるんじゃないかな?と漠然と思ったりもして。

などと長々とまとまらぬことを書きましたが、それはさておきわたしの推しキャラはシライシです。最初はただのギャグ要員かと思ったけどアシリパさんと杉元との絆ができてきているの、胸が熱い。降り注ぐ金の雨のシーンが大好き。

 

 

とりかえ・ばや

話題になっていたのは数年前だったかと思うのですが、気になりつつも読み逃していたのでDMMブックスのセールでまとめ買い。男女入れ替えものということでツッコミどころはありつつも、気にせず読めるように面白く作ってあるんだなあと思いました。個人的には石蕗が腹立ってしょうがないんだけど、平安時代の価値観だとこれが当然だったのだし仕方がないよなあとも思うので、後半コミックリリーフみたいになってたのは笑った。源氏物語みたいに主人公がすぐ泣いて無常を感じたりせずに自分で人生を切り拓こうとするのも現代的で好ましい。と思っていたら、これ原作は平安ではなく鎌倉時代に書かれた平安時代モノであり、さらにそこからさいとうちほさんが漫画なりの翻案をかなり入れてるとのこと。女東宮さまと三の姫がめちゃくちゃ好きなんだけど、猿のエピソードも原作にあるのか…?

 

 

A子さんの恋人

最後の最後、めっちゃ泣いてしまった。「かわいそうなんかじゃない」、けど、悲しいね……。この悲しさはなんでなのかというと、永遠というものが存在しないからなんだなあ。わたしはずっと当然のようにA子さんはAくんと生きてほしいと思ってたけど、最終巻をよんで永太郎くんが「特別」なのもようやくわかった。人生を形作っている、かけがえのないだれか。わたしの人生には、A太郎くんみたいな人がいなかったから、わからなかった。

何かを書く、言葉を紡ぐ、創作する、といういとなみは、ひとつの形を決めてしまわなければ完成しない。それはつまりひとつの答えを出すこと。現実の人生ではなかなかパシッと決められることではないと思うのだけど(ぐるぐる何年も考え続けたり、考えてることにすら気づかなかったり)、答えを出すことでしか前に進まない人生の局面って、あるよね…と思うとなんだかとっても身につまされるのだった。

 

 

かげきしょうじょ!!

歌劇団もアイドルもちょびっとしか知らない世界なので大変おもしろく読んでる(9巻まで)。漫画内の贔屓ができたかも‼︎と思ってたら以下の通りで悲しい…。聖先輩が報われる未来はないのか…?

歌劇団のスターさんって、役者がキャラにピッタリ合った役を演じることで中の人の内面を重ねて見る楽しさがあるのかな?と思っていたので、さらさみたいに憑依して誰にでもなってしまう人は観客に(そして読者に)どんなふうに推されるスターになるのかな。さらさ自身がかなり個性の強い女の子だけど、『ガラスの仮面』みたいに平凡な女の子が舞台に立つと様変わりって感じで見られるのかな。

 

夢中さ、きみに。

和山やまさんのデビュー短編集になるのかな?『女の園の星』でも思っていたけどやっぱり佐々木倫子動物のお医者さん』っぽさがあるよね…。日常にひそむドラマをちょっととぼけた淡々とした笑いで物語るところとか、漫画にしてはリアルな絵柄とか、手描き明朝体(?)とか。しかしそれにしてはチラッと出てきた鳩の描き方がてきとうすぎて笑った(かわいい)。

でもこちらは高校生たちのほんのりとした恋愛みたいなものが描かれていて。特に好きだなあと思った「友達になってくれませんか?」は読書好き少女(だった)わたしが憧れずにはいられないシチュエーション、なんだけど、そこをちょこっとひねった描き方をしているのでどうしても笑える。あと二階堂シリーズがめっちゃ好き…。電車で読んじゃいけないレベルで笑えるんだけど修学旅行編の部屋でのやりとり、不意打ちでとってもキュンとした。でも終わり方がホラーでおののいた。

 

 

おにぎり通信

のだめカンタービレ』『七つ屋志のぶの宝石匣』等の二ノ宮知子さんによる育児エッセイ漫画。これ、出産直後のメンタルへなへなのときに読んでかなり励まされました。多少ダメな母でもいいんだ、って…笑。いやそれはこの方は代表作がアニメ化ドラマ化映画化までしている一家の大黒柱だからこそ許されてるんだとは思うんだけれども…

 

 

ミステリと言う勿れ

最初は短編の謎解き連作ものかと思っていたけど、ずっと伏線がずっとちまちま張られていたのね。最新巻の方では整くんの説教臭さみたいなところがちょっと薄れていたのがよかった。絶対の正しさはないし年齢でも価値観は変わるものだよね。若いころに「こうした方がいいのに!」と怒りを覚えていたことが年取ってからも絶対とは限らないのだ。

 

 

推しの子

タイトルから想像してた話と違いすぎておどろいた。推しアイドルが妊娠したのをひょんなことから知ってしまった僕の複雑なお気持ち…というお話かと思ったら、そんなところを乗り越えてみんな死んだところから話が始まっていた…。サスペンスであり、ちょっとずつ変なところがバレつつある芸能界を批判する社会派でもあり。ルビーのアイドル仲間がちょっとずつ増えていくかんじ、ワクワクする。

 

 

バーナード嬢曰く。

高校生たちが図書室に集まって本の話をするだけの漫画で気楽に読めるんだけど、どんどん読みたい本が増えてしまうという恐ろしい漫画でもある。著者の得意分野だからなのかSFは特に力が入っている気がするし、SFマニアの神林さんと「ド嬢」ことさわ子の友情が深まっていきつつも良い距離感なのがめっちゃ好き。

 

あと、連載中の漫画は↓を読んでいるのですが

・九龍ジェネリックロマンス

・シャドーハウス

・七つ屋志のぶの宝石匣

大きな謎に向かって進んでいく話は一気読みしないと途中で話を忘れてしまうのが困りもの。漫画好きの人ってきちんと自分の中で消化しつつ連載を追いかけていけるのがすごいなと思う。衰える一方のわたしの脳のリソース&キャパシティの問題なのだろうか……。でも漫画は絵を眺めるたのしさがあるので、小説よりも気楽に開いて楽しめるのがいいなあ。