耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

CHESSのこと。3

引き続きミュージカルのCHESSのことを書きます。今回は私が勝手に「黒盤」と呼んでいる(パッケージが黒いから)Original Recording CD(1984)について。ディスクは三枚組で、Disc1とDisc2はそれぞれ第一幕、第二幕のCD。英語の歌詞カードが付属しているのがありがたい。Disc3はインタビューとPVが収録されたDVDだ。ちなみにDVDには、スウェーデン語(?)で交わされていると思われる会話の部分に英語字幕はあるものの、日本語字幕は当然ながらついていない。

CDのほうはiPhoneに入れてしまえばこちらのもの。Disc1とDisc2をプレイリストで連続再生できるようにしておけば、朝の通勤電車に乗ったところで”Quartet”を再生し始めちょうどエレベータで職場に着くころに”One Night In Bankok”が流れ、ノリノリで業務に取り組むことができることに気がついた。こういうのを僥倖というのだろうか。

Disc3のDVDについては、CDほどすなおな気持ちでは楽しめない。そもそも英語ができない私にとって、このDVDに収録されたインタビュー、ABBAのオフショットなどで交わされている会話の意味を汲み取るのは遠い先になることだろう。なお、辞書をひかないと知らない単語だらけのCHESSの歌詞カードはそれ以前に聳えている高い壁だが、こちらはまだストーリーの存在が助けになってくれそうな予感がある。

DVDにはPVも収録されており、こちらのほうがメインといってもよい。PVである以上、音源はCDのものと一緒なのだが、映像があるというのはやはりうれしい。ただ、1984年のものだけあってかなり古い。映像の質が悪いことやファッションの古さについては文句をいっても仕方ないのだが、なんというか演出とカメラワークに古さを感じる。抽象的に形象化された都会的なビジュアルが、今見ると中途半端に見えてしまうのだろうか。文化の世界には古くても好いものがたくさんあると思うのだけれど、なんというか1980年代的なものがあまり好みではないのかもしれない。 一方で、そのミステリアスでありながら物寂しさを感じさせる一面には惹かれてもいるけれど。

それにしてもストーリーやいつのまにかほとんど忘却のかなたとなっている。シーンの印象は強烈に残っているものがあれど、CDを聴いていて「これはなんのシーンだったかな?」と考えても思い出せないことも多い。ネットで調べていると、荻田さんの演出により他国版のCDとは曲順が変えられていた箇所があったらしい(Pity the Childとか)。それで余計に混乱しているのかもしれない。

家にいるときは歌詞カードを見て聴くこともあるのだが、聴いているうちにいつのまにか言葉は押し流され、意味をなくした音の塊になり、詞が音楽の一部となり果ててしまう。そういえば昔からJ-POPだろうと演歌だろうと、歌詞の意味を聴きながら音楽を聴くのが苦手だった。感覚が優勢の左脳人間なのだろうといえば収まりはいいが、ただ注意力散漫でぼんやりしているだけだろう。そういえば去年フィギュアスケートのシングル・ペアのプログラムでボーカルが解禁になったとき、"動きを追うより歌詞を聴いてしまうから集中力がそがれる"という意見があったのだが、歌詞が耳に入らない私にはよく理解できなかった。……あれ、なぜかまたフィギュアスケートの話になってしまったが、とにかく、たぶん世の中の人とくらべて、私は何も考えないで様々な行為を行っているということだと思う。私の人生での失敗はだいたい、うっかり何も考えずに動いたときに起こるということは経験上よくわかっている。