耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

バッグの中身を公開する人々について。

ファッション誌を中心とする女性誌に、おしゃれな女性たちのかばんの中身を写真に撮って公開するという特集があります。
バッグの中身を公開してくれる女性がどんな人物かは、その雑誌がターゲットとする読者の要求によって変わります。

OL誌であれば、一般層に近い会社員の読者モデルのこまごまとした持ち物が誌面に並ぶことになります。お財布にiPhone、定期入れ、メイクポーチの中身にも安価な化粧品とデパートで購入できる外資系ブランドの化粧品が入り混じり、長年愛用しているブランド小物は持ち主の美意識の高さによっては薄汚れていたりもします。

主婦層をターゲットにするなら、似た立場の読者モデルや子持ちの芸能人、華やかでセレブリティな世界に憧れる女性のための雑誌では、芸能人やらアパレル関係の女性が、派手でやたら自己主張の強い持ち物を誌面に並べ立てます。やがて年齢層が上がるにつれ、コスメの持ち物はシンプルに、読み方もよくわからない英字固有名詞の並ぶいわゆるオーガニックコスメ的なものが増える傾向。

雑誌で特集されるのは、たとえ読者モデルや街頭スナップであってもメディアに自分の顔と私物をあからさまにさらし出すことに同意し、かつ、そもそもそれ以前に持ち物を見せてほしいという依頼がくるほど何がしかの魅力を備えた人物であることにほかなりません。

他者からの要請は特にない、が、この私のセンスで集めたお気に入りの持ち物を見てほしい、という欲望は可愛い小物をバッグに詰め込んでいる女性なら多かれ少なかれ抱いていることでありましょう。そういった方々が今ではネットでいつでも自分の持ち物を写真に撮って公開することができる時代になりました。それも自分の納得のいくまで撮り直せるし、見目良く加工してアップすることが可能となればもう公開しない手はありません。

洋服や靴やバッグとは違って、初対面ですぐに目に入ってくるような性質のものではありませんから、洋服でピンクを着るのが恥ずかしいと思っていてもハンカチ程度ならなんとかいけそうとか、でもやっぱりお財布にまで取り入れるのはキャラじゃないし少し恥ずかしい……なんて内心の葛藤もよりいっそう観察できそうなところです。

そんな迷いや幾多の失敗を乗り越え、厳選されただれかの持ち物はやはり素敵。自分の好きなものを知り尽くしているので、たとえブランドが違っても、色みやテイストまで統一された画像には憧れを禁じ得ません。本名も人柄も知らず、ことばすら交わさなくても、なぜかその人のキャラクターをよく知っている気分になれるから不思議なものです。

なお、個人的に尊敬するのは、アイデア商品を上手に使いこなしている女性や、だれでも手に入る百円ショップや無印良品のシンプルな道具を工夫して整理収納に利用している女性です。お気に入りのグッズで身の回りを固めてモチベーションを高めることも女性にとって大切ですが、賢く生きる力を身に着けている女性はそれだけですばらしいものです。

結局のところ、私がバッグの中身特集が好きな理由とは、他人の持ち物を通して自分の目指す女性像を追い求めているからなのかもしれません。