耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

メトロポリタン美術館展@大阪市立美術館

大学の卒論の題材に選んだくらいジョルジュ・ド・ラ・トゥールの絵が好きで、以前ニューヨークに行った際にもメトロポリタン美術館は訪れた。それが日本で見られるとなれば、やっぱり貴重なチャンスなので、今回の展覧会も見に行くことにした。
 
ラ・トゥールの作品はいわゆる「昼の絵」と呼ばれる明るい画面の絵と、「夜の絵」と呼ばれる暗がりの場面の絵に分かれる。わたしがより惹かれるのは「夜の絵」の方なのだけど、今回来ていた《女占い師》は昼の絵。

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ジョルジュ・ド・ラ・トゥール《女占い師》1632-35, Oil on canvas, Metropolitan Museum of Art, New York


改めて実物を見ると、色彩が豊かで華やかな印象に惹かれる。図版には綺麗に再現できない、ピンクやイエローっぽい色づかいが綺麗で、見とれてしまった。全体の色のトーンを揃えつつ、真ん中の人はきちんと目立つカラーリングになっている。
複雑に交錯する視線と手指の構成も見事。画面上に演出される、緊張感のある一瞬。

そしてこれだけ精緻に、豪華に描き込める人が、後年《マグダラのマリア》みたいなシンプルで内省的な雰囲気の作品を何点も何点も描いているというのがとてもおもしろいなあと思う。


今回の展覧会は、本場のメトロポリタン美術館と比べてコンパクトにまとまっている分、自分が見たい絵とじっくり向き合える感じが良かった。現地だと絵の点数が膨大すぎるし、一日中街歩きの観光の一環に組み込んでしまい、疲れてちゃんと見られなかったりしますからね。 
全体としては、ルネサンス後期印象派の時代別に有名作品で見どころを作りつつ特徴を紹介するオーソドックスなもの。
あまり有名ではないような作品にも丁寧にキャプションがついており、知らない作品の発見があるのも楽しい。

 

興味深かったのはマリー・ドニーズ・ヴィレールという、20世紀に再発見された女性画家。女性のいる暗い室内に、明るい屋外の光が差し込み、女性の顔は逆光になって暗く、後ろから照らされている。窓の外のたのしげなカップルと、室内でひとり書き物をしている(?)女性が対比されている。ちょっと珍しい光の使い方をした絵だ。

女性画家が美術界で軽視されるのは歴史上ままあることで、この絵も長らくダヴィット*1のものだと考えられていたらしい。

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マリー・ドニーズ・ヴィレール《マリー・ジョゼフィーヌ・シャルロット・デュ・ヴァル・ドーニュ》1801, Oil on canvas,  Metropolitan Museum of Art, New York

 

初めて観たものの中で好きだったのは、《ピュグマリオンとガラテア》。

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ジャン=レオン・ジェロームピュグマリオンとガラテア》1890頃, Oil on canvas,  Metropolitan Museum of Art, New York

METのパブリックドメイン画像だと色が全然綺麗に見えない…。本当は白く浮かび上がる女性の後ろ姿がとても美しい絵です。

自分が造った像に恋をした彫刻家と、生身の身体を手に入れた彫像の女性の物語。キャプションでは「当時はこうした感傷的でロマンティックな物語をモチーフにした絵が流行だった」と書かれていたが、個人的には年齢を重ねるごとにこういう感傷的でドラマティックなものに惹かれるようになっている気がする…。

 

あと、ターナー、クロード・ロラン、コローあたりの風景画もこれを機に見比べられてよかったな。ターナーは空の色、ロランは雲の形が好き。

 

会期が始まってまもない11月の平日に行ったのだけど、有名な絵の前にはちょっとした人だかりができる程度には混雑していた。

*1:マリー・アントワネットの最期の日の横顔をスケッチしたあの画家ですよね…?