耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

「ブーリン家の姉妹」シリーズの続刊翻訳を祈る会

フィリッパ・グレゴリー著「ブーリン家の姉妹」シリーズにハマっている。いや、正確にはハマっていた。日本語訳本が4冊しか出版されていないので、英語が不自由な私はそれ以上読み進めることができず、腹いせにこの記事を書いているのである。


「ブーリン家の姉妹」シリーズ は、2008年にナタリー・ポートマンスカーレット・ヨハンソン出演で映画化 されたことをきっかけに、集英社文庫から日本語訳書が出版された。しかし残念なことに2011年に4作目が出て以降日本語の出版はないようである。*1ちなみに私自身は映画は未見だ。


内容は愛憎と陰謀渦巻く宮廷歴史小説。次々に6人もの妻を娶り、英国とローマカトリックとの訣別を決定的なものにしたという、英国史における最も強烈な国王ヘンリー8世とその2番目の妻アン・ブーリンのロマンスを皮切りに、二人の間の娘エリザベス1世の治世にいたるまでのイングランドを描いている。官能的なシーンもあるロマンスとして手軽に楽しめる一方、みずからの意志でもって時代を生き抜いてきた歴史上の女性たちを主人公としていることから、現代的な自立した女性像を重ねて読むこともできるというところが私の胸熱ポイントである。


2008年に1作目を読んで以来、なんとなく続きを読むことはなかったのだが、去年からBSプレミアムで放送しているドラマ「クイーン・メアリー」を楽しんで視聴していたところ、同時代を描いているこの小説のことをふと思い出した。本屋で買い求めて2作目から読み出してみたら、これがまた面白いのである。私自身が恋愛的なものを求めていたタイミングや、近年ミュージカルを観るようになってヨーロッパの宮廷ものを好むようになっていたというタイミングもあったのか、ついつい夢中になってしまった。


とはいえ日本語訳がないのがやはりネックだ。メアリー・スチュアートもきっと登場するであろう続刊を読みたくてうずうずしてしまう。単に売上が悪かったのか権利問題なのか、グレゴリー氏の出版状況は順調なのに日本語訳は途切れたまま2011年から7年も空いているし、いまさら出版されることはないのかなあ。十二国記みたいに執筆自体に時間を要しているというのなら諦めて待つしかないが、出版されているのに自分のスキルの問題で読めないというのはなかなか歯がゆい。


Philippa Gregory - Wikipedia によると、アメリカではPlantagenet and Tudor Novelsとしてまとめられているようだ。これらの本は当初Tudor CourtシリーズとCousin's War(ばら戦争)シリーズという別々のシリーズだったものが、作品数が増えるにしたがって作中の時代が繋がり、結局1つのシリーズになったようである。著者本人が発表している”Reading Order”にしたがえば、時代の下る順に読むことができるようだが、少なくともTudor Courtシリーズはそれぞれが独立した物語なので(登場人物は立場を変えて登場するが)、順番はあまり関係がないのかも。


Tudorシリーズ の著者によるおすすめ Reading Order 順リストは以下。(カッコ内は出版年)

  1. The Constant Princess (2005)→未訳。ヘンリー8世の最初の妻キャサリン・オブ・アラゴンがメインの話らしい。
  2. Three Sisters, Three Queens (2016)→未訳。キャサリン・オブ・アラゴンとその義理の姉妹たちの話らしい。
  3. The Other Boleyn Girl (2001)→邦訳『ブーリン家の姉妹』。アン・ブーリンの姉であり、アンより先にヘンリー8世の愛人となっていたメアリー・ブーリンが語り手なのでこのタイトル。
  4. The Boleyn Inheritance (2006)→邦訳『悪しき遺産』。ヘンリー8世の4番目の妻アン・オブ・クレーヴと5番目の妻キャサリン・ハワードという比較的マイナーな2人をメインにしているが、この2人にアン・ブーリンの義理の姉ジェーン・ブーリンを加えた3人が交代に語り手を務める。王に翻弄されて目まぐるしく変わる彼女たちの立場が気になって飽きさせない。
  5. The Taming of the Queen (2015)→未訳。ヘンリー8世の最後の妻キャサリン・パーの話らしい。父親の度重なる離婚と結婚のため庶子扱いされていたエリザベスたちの身分回復に努めた人徳者として語られることの多いキャサリン・パー。とはいえ暴君の夫の相手はやはり苦労が多かろう。
  6. The Queen's Fool (2003)→邦訳『愛憎の王冠』。直訳は「女王の道化」、これも語り手から付けられたタイトルで、主役はメアリー1世。彼女の傍仕えとして取り立てられた道化師のハンナという、架空の人物が語り手に据えられている。女王みずからが戦って王冠を勝ち取り、失意の中で死を迎えるまでのお話し。ちなみに、2017年に再演を迎えたミュージカル『レディ・ベス』はこの時代がちょうど重なっていると思うのだが、エリザベスのキャラは全く違う。
  7. The Virgin's Lover (2004)→邦訳『宮廷の愛人』。こちらはエリザベス一世がメイン。彼女のしたたかさと人間味が思う存分楽しめます。
  8. The Last Tudor (2017)→未訳。9日間の女王として有名なジェーン・グレイとその2人の妹キャサリン、メアリー。
  9. The Other Queen (2008)→未訳。スコットランド女王メアリー・スチュアートがメインの話らしい。Kingleの最初の方だけ立ち読みした限り、彼女はフランソワ2世ととっくに別れ、再婚したダーンリー卿ヘンリーも殺害され、容疑を掛けられてイングランドに亡命した後の話と思われる。

 

Cousin's WarシリーズのOrder順リストは以下。

  1. The White Queen (2009)→邦訳『白薔薇の女王』。エドワード4世妃となったエリザベス・ウッドヴィルの話。
  2. The Red Queen (2010)→未訳。メインはマーガレット・ボーフォート。なかなかの女傑であったらしく、夫ヘンリー6世がリチャード・ネヴィルにより逮捕された際も戦いに乗り出して夫を救出したという。ヘンリーはいわゆる尻に敷かれるタイプの夫であったのか。
  3. The Lady of the Rivers (2011)→未訳。ルクセンブルクのジャクェッタという女性がメイン。彼女の夫リチャード・ウッドヴィルはエドワード4世の側近として初代リヴァーズ伯に叙された人物で、そのためこのタイトルのようだ。ちなみにリチャード・ウッドヴィルとジャクェッタの娘は『白薔薇の女王』エリザベス・ウッドヴィル。
  4. The Kingmaker's Daughter (2012)→未訳。リチャード3世妃アン・ネヴィル。彼女の父であるKingmakerリチャード・ネヴィルはヨーク家の血を引きながらランカスター家の子女と婚姻を結び、さらに自身の娘たちも両家にそれぞれ1人ずつ嫁がせている。アンはランカスターの皇太子エドワードと婚姻を結んだ方の娘だが、エドワードの死後にリチャード3世妃となる。
  5. The White Princess (2013)→未訳。ヘンリー7世の妻エリザベス・オブ・ヨーク。リチャード3世を破って即位したランカスター家のヘンリー7世は、ヘンリー4世期の決定によりその血筋から実際には王位継承権がなかったため、その強化のためにヨーク家のエリザベスを妻に迎えたということらしい。この結婚によりばら戦争終結
  6. The King's Curse (2014)→未訳。マーガレット・ポールがメインらしい。この人はプランタジネット家の生き残りだったために『悪しき遺産』でヘンリー8世に処刑される人物。これはその若い頃の話か?

 

以上、矢印のコメントは森護著『英国王室史話』を参考にした自分用メモである。調べるほど入り組んだ近親の人間関係で争っているのだな…という無常の感にとらわれる。たぶんストーリーに入り込んで読めば面白いんだろうな。Cousin's WarシリーズはWhite Queenのタイトルでドラマにもなっているらしいが、今のところ見る術がない。(時間もない)

*1:この映画は当時もわりと話題になったと思うが、実はベネディクト・カンバーバッチとかエディ・レッドメインとかジム・スタージェスも出ていたらしい。