耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

2021年6~7月に読んだ本

最近は赤ちゃんにも生活のリズムができてきて、本を読む時間の確保も少し楽になってきた。といっても、まだまだ24時間が細切れにされており、じっくり腰を据えて何かをするというのはやっぱり難しいのだけど。

とはいえ我が家はわたしよりも夫のほうが家事能力が高く、世間の育休妻×勤労夫に比べるとだいぶのんびりしてる妻だとは思う。赤ちゃんが自力で動きだしたり、離乳食をたべだしたらもっと忙しくなるのかな…

 

 

今村夏子『星の子』朝日文庫

こどもの頃に病気がちだったことから、両親がマルチまがいの新興宗教に入信してしまう。語り手のちひろは現在中学生で、おそらくは少しずつ世間と自分の家庭とのずれが見え始めている。姉は出奔して行方知れず。親や同じ宗教の子どもたちとは、同じ星を同じように見つめることができなくなって、ちひろはこれからどんな人生を選ぶんだろうか。

両親が娘を愛しているから今がある。家族の結びつきを感じさせるラストであり、だからこそ、未来を選ぶのはたやすくないのだと思う。

おもしろかったのは、ちひろがおそらく持ち前の天真爛漫さのようなものから、信者の家の子だと知られていながら学校や周囲に(一線を引かれつつも)受け入れられている描写があるところだ。これが大人のコミュニティならその反応はもっと強い拒絶になるのかなと思う。彼女が片思いしていた南先生の反応からしても。ただ彼女のその性格的魅力は、幼い頃から宗教の慣習の中にいることで強化されたのかもしれないというところが複雑だ。全国の信者の集会で見知らぬ人と半ば強制的に会話させられる「交流の時間」とか、本当はそれは信者の勧誘スキルを育成するための仕組みなのだろうけど。

 

 

小川 洋子『物語の役割』 (ちくまプリマー新書)

『星の子』の巻末で、小川洋子さんと今村夏子さんの対談が組まれており、その流れで手に取った本。創作や文学に対する小川さんの謙虚で誠実な姿勢が読み取れる。そして小川洋子さんって本当に、物語の読み手としても卓越した才能の持ち主だと感じる(芥川賞選考委員に対していまさらわたしが言うまでもないことだが…)(小川さんの読書感想をもっと読みたいな〜と思っていたらそういえば、毎週ラジオが放送されているのだった。と思い出したので最近また聴いてます。)。

この本でも「誰もが持っている、語るべき物語を追いかけているだけ」といった言い方をされているが、世界をそのように見る才があるからこそ、美しい結晶のような小川作品が生まれてくるのだろうなあと思う。

 

 

高野 秀行 清水 克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』 (集英社文庫)

SNSで話題になっていたので、WEB公開の本文を試し読みしてあまりの面白さにそのままポチった本。現代日本人には理解しにくい、ソマリ人と中世日本人の心性や倫理観が実は似通っている、という発見だけでも好奇心をくすぐられるし、その内容を読むほどに、自分の生きている世界の常識や価値観が相対化されていく。すると何が起こるかというと、自分が社会に不適合だと感じてつまずいたときに(一社会人としてダメだなあ、自分ってなんて気が利かないんだろうetc…)そんなものは全く普遍的な価値観ではないとわかって元気になるのである。

読了日:07月14日

 

ピート・ハミル『ニューヨーク・スケッチブック』 (河出文庫)

ニューヨークに住む人々の苦楽をスケッチのような数ページずつの短編で描きだす。三十以上ある短編集だけれど粒だっていてその質にばらつきがなく、いずれもどことなく哀愁を込めた余韻を感じさせるのが良い。個人的な感想としては、自分と似た境遇の、既婚で子どもを育てている最中の女の孤独感を書いたものが特に印象深かったけれど、どれを取ってもスポットの当たった人物の人生の余白を想像させる奥深さがある。
読了日:07月20日