耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

9月に読んだ本

9月の読書メーター
読んだ本の数:3
読んだページ数:1555

ロリータ (新潮文庫)ロリータ (新潮文庫)感想
私の中のフェミニスト的な者がハンバートに抗議の声を上げるよりも先に、他者を性的対象として見る人間としての目が彼に同化していました。変態男であり、エゴのために少女の権利を蹂躙する犯罪者であり、気持ち悪いおじさんであり、でも赤の他人ではなかった。チェス相手のぼんくらな隣人から、ロリータほどには溺愛していない妻や恋人、そして自分自身までも、シニカルなユーモアをもって活写するからです。そして494頁の絞り出すかのような告白は、正誤など存在しないこの世界にとぐろを巻く奇妙な成り立ちに、思いを馳せさせてくれます。
読了日:09月30日 著者:ウラジーミル ナボコフ


楽園への道 (河出文庫)楽園への道 (河出文庫)感想

フローラ・トリスタンに激励される。革命のための扇動の旅は神の教えを説いて回る聖者の巡礼の様相を呈していた。いっぽう、フローラの異性嫌悪にたいし、ポール=コケの性俗っぷりは痛快ですらある。欲望のままに生きることを志向するのは他者を蹂躙することと隣り合わせだ。地上の視点からみれば対極にあるように見えたとしても、祖母と孫の追求したもの、そのなりふり構わない熱量には共通するものがある。当然だ、それは人類全体にとっての夢なのだから。

ふたりの精神が自分のものかのように浸透してくるのは、不思議に馴染みやすい二人称の語り口のせい。とっつきにくかったかもしれない長い物語を親しく近づけてくれる文体の妙。この文体が気に入りすぎて、しばらくは私自身の思考の中でも、目には見えない神的な誰かが語りかけてくる一文が自然と差し挟まれるほどだ。
読了日:09月14日 著者:マリオ バルガス=リョサ


江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)感想
みにくいものを見たいと思い、不気味なものに惹かれる好奇心を満たしてくれるのは勿論、最後に収録されていた『芋虫』の凄絶さに打たれた。戦争で四肢を失い、五官さえも奪われたその人が、最期に柱に遺したたった3文字の言葉こそは、人間性というものの代え難い尊さを示している。乱歩の興味は確かに不気味な閉鎖的空間を創り出すことにあったのかもしれないけれど、その闇色のコントラストが濃いほどに、浮かび上がるものもくっきりと見えるように思う。
読了日:09月01日 著者:江戸川 乱歩

読書メーター