耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

2018年4月に読んだ本

4月の読書メーター
読んだ本の数:7
読んだページ数:2749

読む本にも、現在の関心が如実に現れてきたような気のする今月。自分の中と外とで、価値観が変容しつつあることを肌で感じる今日この頃です。

 

 

パノララ (講談社文庫)

パノララ (講談社文庫)

 

 それはひと続きの風景みたいで、ところどころがいびつに繋がっていて、増改築を重ねた家みたいに。私だって同じ所を繰り返してくっつけて都合のいいように見せてるだけなのかもしれないのにこれは一本道なんだと言い聞かせていて、理想だからって一本道が正解なわけでもない。気づいたところで変わることの方が難しい。全体を引きで見てああだこうだこれはダメだとか分析するのは確かに賢くないとできない。でも、たまたま集まっただけの人たちが見えない作用をしあって醸す心地よい空気を、私は愛したいと思う。
読了日:04月05日

 

 

隠し事 (河出文庫)

隠し事 (河出文庫)

 

 仮に向けられても気づかないふりをして受け流してきた「揺れる男心」をこうして可視化されてみるとやっぱり「好きな人なら可愛いけどそれ以外だと気持ち悪い」という身勝手な感情が発動してしまって、申し訳ないのだがそれが素直な感想。とはいえいずれの側にも各々主張する正義のようなものの滑稽さは書かれており、すごいなと思ったのは主人公の彼女が発する「自立した友達とかみんな言ってるし」という台詞である。めちゃくちゃ矛盾してて読んでて思わず笑ってしまったのだが、よくよく我が身を振り返ってみると、大体において私の考える「正当」の根拠とはそんなかんじで、思い当たる節に気づいた途端に頭を抱えて恥ずかしさに転がりたくなった。
読了日:04月06日

 

 

問題だらけの女性たち

問題だらけの女性たち

 

松田青子さんが翻訳をされているのが目に留まり手に取った本。女性の脳がスポンジでできてた時代があるんだって。我々を人として扱ってほしい、と堂々と声に出すことが正義になる時代に生まれていてよかった。と、わたしなどはすぐに安直な思いを持ってしまうけれど、この世界がそのように変わっていけたのは幾多もの「女性たち」がいたからこそだ。

 読了日:04月07日

 

 

女の一生 (新潮文庫)

女の一生 (新潮文庫)

 

個人的なことだけれど、わたしは恋人と結婚の具体的な話が出て初めて、既婚者となった自分の将来を本気で意識した。それまではなんだか一生独身生活が続くような気がしていたので。好きな人と結婚すること自体は楽しみにしているとはいえ、今後は結婚に続く出産・育児といった人生の節目が次々と襲ってくるであろう(襲ってこないとしてもそのときはそのときで別の圧を感じることになるだろう)し、それから自分のお財布や自分の眠る部屋が自分ひとりだけのものでなくなっていくことで、わたしの生活がどうしようもなく変容していく。こうした未来への恐怖心がわたしにこの本へ手を伸ばさせた。

初めは父、次に夫、彼の死後には息子、と男たちに自分の人生を翻弄されるジャンヌ。当時の倫理規範がいかに男性中心だったかといえば、夫が悪びれもせず女中をみずからの所有物して手込めにし、その事実を知って憤る妻の父親は「自分にも身に覚えがある」と気づいてその矛先を収めるのである。現代のわたしが自分と重ねてみようと試みるとあまりのひどさにおののいてしまうが、渦中にいる主人公ジャンヌはといえば、不幸ばかりのようにさえ思える人生の中でも妙なところに滑稽さを見つけて笑っていたり、嫌われ者の残虐な司祭に縋ってみたり、嘆いて寝込むこともあるけれど、たとえひと時でも、そのうちに希望をみつけてくる。たとえそれがいつかは裏切られるものであっても。ひとの人生とは一面的なものでもなければ、出来事だけで価値をきめられるものでもないのだと思う。
読了日:04月12日

 

 

分別と多感 (ちくま文庫)

分別と多感 (ちくま文庫)

 

19世紀の上流社会の女性の話がもっと読みたい、ということで積読していたこちらを次に。もっと楽観的な気持ちで、イギリスの10代のお嬢さまたちの人間模様を楽しめました。
読了日:04月15日

 

 

さすらう者たち (河出文庫)

さすらう者たち (河出文庫)

 

 文化大革命後の中国。あっというまに天地が逆転してしまう社会で、何が正しいのかも分からないまま、皆がただ、自分に見えたもの、手に触れることのできたものを信じている。結果的にその行動が何を引き起こしたとて、その引き金は邪悪さなどない一時の感情の揺れだったのかもしれないのだ。

ほかの社会だったらもっと容易に幸せになれたのだろう。でも、もしもそうだったなら、出会わなかった彼らは彼らでなくなってしまう。恐ろしい世界の渦中にあっても、愛おしさで胸がきゅっと締めつけられるほどの結びつきが生まれることに、ただ泣きたくなる。
読了日:04月22日

 

 

革命前夜 (文春文庫)

革命前夜 (文春文庫)

 

 私にとってベルリンの壁崩壊は、ちょうど生まれ年に起こったという理由で覚えの良い歴史上の一出来事にすぎなかった。けれど、年表でひとの生涯や、歴史を眺めているだけでは見えなくなってしまうものがある。革命とは歴史の流れの中で突然現れた点ではなく、その中に生きる一人一人の意識が変わり、行動があり、生活が変わり、そうして歴史は大きなうねりを生み出していく。生きたことのないその時間を、血の通う実感と共に追体験することで、私は私の人生に勇気を持つことができるのです。
読了日:04月28日