耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

2018年9月に読んだ本

 9月のすごし方

 海外旅行へ出かけて48時間飛行機にカンヅメになっていたり、外に嵐が訪れたりしたので読書時間はまあまあ取れた月だったと思う。平日は昼休みに公園で本が読める気温になってきたのが嬉しい。これがあるのとないのでは、精神の安定度合いがずいぶん違う。そうかと思えばもう十月なのに半袖で過ごしているが…。世界樹の迷宮X(3DSゲーム)はプレイ時間が五十時間を超えましたがまだ折り返し地点にも至っていません。

 

2018年9月に読んだ本


読んだ本の数:8冊
読んだページ数:2726ページ

 

昼田とハッコウ(上) (講談社文庫)
 

 読了日:09月06日 

昼田とハッコウ(下) (講談社文庫)
 

 突然の父の死によって思いがけず実家の書店で働くことになった昼田は、書店員としての仕事を通じ、自分の存在意義を発見していく。昼田は金のためではなく、社会を変えたいから働いているのだと気づく。それでも、「金のことを考えると暗い気持ちになることがあるよ。」と言う。企業勤めのときの友人とは顔を合わせるのを避ける。金のために働き、社会を変えたいという気持ちを幻想だと言い聞かせて、パンドラの箱に押し込めているわたしは、共感する。水の中と外のように、わたしたちは違う世界を生きながら、日々を積み重ねることしかできない。
読了日:09月11日
 

感染地図: 歴史を変えた未知の病原体 (河出文庫)

感染地図: 歴史を変えた未知の病原体 (河出文庫)

 

 人間の思考は思い込みや感情でいとも簡単に曇らされてしまう。大抵のミスはその理由を知識として持っていれば防げるように思えるが、我々が感情に流されて大小関わらず過ちを繰り返してしまうのは、一人の生涯においても歴史の流れの中においても変わらないようだ。ただ、一つずつの事実のみを冷静に見極める努力の実行もまた人類の功績だったと、この本は教えてくれる。それから、科学技術の進歩と文化的豊穣さに加速されてますます巨大化する都市生活の危険と魅力についても。疫学史ノンフィクションとしてのみでなく読み物としても楽しめる一冊。
読了日:09月15日
 

オリーヴ・キタリッジの生活 (ハヤカワepi文庫)

オリーヴ・キタリッジの生活 (ハヤカワepi文庫)

 

 平穏な田舎の生活に見えたとしても、どんな人にでも語られるべき人生のワンシーンくらいはある。夫、親、子、友人、隣人、そしてまたその人の親や子、隣人や友人。幸福な一日を送った人は、明日も明後日もこれからもずっと同じような日が続き、今日と同じような自分でいられると信じるが、他人の言葉やちょっとした出来事、あるいは時の流れによって、きのうまでの自分はすぐいなくなる。そうして他人に無数の顔を見せながら命を延ばし、子育ても老後の生活も、思い描いていたようには進むものではないと知るのだろう。
読了日:09月17日
 

 マリア・テレジアの政治的手腕の発揮について知ることができ興味深かった。プロイセン王フリードリヒ1世とのエピソードも見ようによっては腐れ縁ライバルのようで、ちょっとはしゃいでしまう。晩年息子に皇帝の座を譲ってから実権をすっかり失ってしまうくだりには少々考えさせられるものがある。たとえば新しい世代の人間は上の人間が過去のやり方に固執することに苛立つことがままあるけれど、上の世代には上の世代なりの意図があって、大局的にみればあえて時勢に沿わない道の方がより良いという可能性も考えてみる価値があるかもしれないのだ。とはいえ旧習にこだわることが良いとも思えないので、公平な目で世界をみるのは難しい。
読了日:09月18日 著者:江村 洋
 

ドリアン・グレイの肖像 (新潮文庫)

ドリアン・グレイの肖像 (新潮文庫)

 

 芸術をとおした幻想にだけ夢を見て、生身の身体を知って幻滅のあまり放った刃は、たしかに若さゆえだったかもしれない。それゆえに今度は、自分が他人に夢を見させるためのただの美しい人形になってしまった。いつまでも美しいドリアンの姿は人が自分を映す鏡、人に交わりたいがために最も善き自分を見てくれる人を葬れば、その先に待つのは破滅しかない。

 読了日:09月28日 著者:オスカー ワイルド

 

オセロー (新潮文庫)

オセロー (新潮文庫)

 

 気になるのは奸臣イアーゴーの妻、エミリア。そもそもイアーゴーの嫉妬心の発端にはオセローがエミリアを寝取ったという一因があったと語られるものの、エミリアの一件は真実だったのか藪の中。エミリアとデズデモーナとの最後の会話も意味ありげ、世界を掌中にできるなら夫を裏切るのも平気、といった台詞や、女を従者のように扱って疑わない夫への不平不満を述べるところなどは、オセローの嫉妬心以上に近代人の共感を呼ぶのでは。すなおに読めば、彼女は何も知らなかった妻でしょうが、あるいは途中で勘付いていながら、とどのつまりというところになってイアーゴーの手の内を全て明かしてしまうのは、彼女のしっぺ返しと取ることもできるでしょう。
読了日:09月29日 著者:シェイクスピア

 

リア王 (新潮文庫)

リア王 (新潮文庫)

 

 オセローを読んだ直後だったためか、悪党も根の性分の善さを思いたくなるような人物たちに、より哀れみを覚えた。エドマンドも父の最期を知り胸を突かれるくらいなら、初めから企みをしなければ良いのに、と思うのは傍観者でいるからで、愛してもらうべき人に、欲しいとき欲しいだけの愛がもらえなかった、という感情が恨みに変わったのでしょう。情けの深さを虚飾の物量で測ろうとすれば悲劇を招くのは、どのような家庭でも変わらぬもののように思える。
読了日:09月30日

 

大学は文学部に行かせてもらっていた身なのにシェイクスピアをまともに読んだことがないことを急に思い出したので、月末は積読を2冊続けて消化。本当は新訳の河合祥一郎さんの訳か定番の松岡和子さんの訳が気になるのだけど、物欲の塊なので装画につられて新潮文庫を買ってしまう。


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