耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

2019年9月に読んだ本

今月のようす

あっという間に終わった9月。振り返ってみると連休が2回もあり、ちょこちょこと旅行に行ったりお出かけをしたり慌ただしかった。残暑もだらだらいつまでも続くし、なんとなく腰を落ち着けての読書をする気分ではなかった気がする。

 

ところでもうすぐ9月が終わり、ということは、もうすぐ十二国記最新刊が発売ですね。慌てて実家を探したら、全巻持ってるつもりだったのに全然持ってなかった↓

この後「増税前だから」と言い聞かせて2冊だけ買い足した(『風の海 迷宮の岸』と『東の海神 西の滄海』)けど、表紙イラストが講談社X文庫版から新潮文庫版で刷新されていたことを後に知る。そのうち新潮文庫版を全部集めたくなる予感がする……

 

小野 不由美『風の海 迷宮の岸』十二国記 (新潮文庫)
風の海 迷宮の岸 十二国記 2 (新潮文庫)

風の海 迷宮の岸 十二国記 2 (新潮文庫)

 

十数年ぶりに再読。落ちは朧げに覚えていたものの、詳しい事の顛末は完全に忘れていて、心底楽しめた。昔は驍宗より李斎が好きだった気がするのだけど今読むと驍宗がかっこいいな…と思うのは、恋にも似た気持ちで王に惹かれる泰麒の心情に同化するように読んだからか。文字通り運命共同体である王と麒麟の関係が一対一の恋愛関係に似ている(そのあり方が十人十色であるというところも含めて)、ということに改めて気づく。紡がれる新しい物語に思いを馳せ、胸が躍ります。

読了日:09月30日

 

シェイクスピアアントニークレオパトラ』 (新潮文庫)

今まで読んだ恆存訳シェイクスピアの中でいちばん読みやすかったと思ったのは、解説にもあるようにこれが「リアリズム悲劇」として訳されたものだったからなのかもしれない。『ロミオとジュリエット』と結末は似ていながら、主役の男女に若々しいひたむきさが感じられないという点から対照的な作品。

アントニーとクレオパトラ (新潮文庫)

アントニーとクレオパトラ (新潮文庫)

 

傍道に入ったような読み方だと思うのだけれど、どうもオクテイヴィアが気になる。シーザーとアントニーの仲を一時的に執り持つため、政略結婚で嫁いだアントニーの妻。既にクレオパトラとの関係は公然のもの。クレオパトラを堂々と憎んでよいはずの立場であり、周囲からも自分の感情をそのように推し量られながらも、彼女はそれを表明せず、むしろ血気盛んな弟を淡々とかわしている。シェイクスピアに彼女をしっかりと描き込むだけの意志がなかったにすぎないのだろうが、わたしは彼女の目に、クレオパトラへの嫉妬を覆うほどの羨望、そして密かな憧憬さえ読み取りたくなってしまう。アントニーの魅力を感じ取れないからだろうか。

女王自身もアントニーの死の前後、敗北の色濃くなってきた頃にオクテイヴィアの目を気にする台詞を二度も吐く。シーザーに下るか誇りを保って自ら死すか、女王はいずれをも選べたのだが、矜恃を保てたのは彼女自身の誇り高さというよりも、自分がどう見られるのかを気にした結果にすぎないようだ。

読了日:09月25日

 

松田 青子『おばちゃんたちのいるところ-Where The Wild Ladies Are』 (中公文庫)
おばちゃんたちのいるところ-Where The Wild Ladies Are (中公文庫)

おばちゃんたちのいるところ-Where The Wild Ladies Are (中公文庫)

 

古い時代に語られた物語を、現代の風俗を織り込みながら翻案して、知らない間に出来上がっていた違和感を削り取る。『日本のヤバい女の子』みたいだなと思ったらまさに、はらだ有彩さんが解説を書かれていた。助けあって生き延びるための知恵であるはずの社会が、同じ手で個人の人生を抑圧する。だけどそうした抑圧のなかにいる人に手を差し伸べるのもまた社会、「おばちゃんたち」の存在なのだ。

読了日:09月10日

 

多和田 葉子『献灯使』 (講談社文庫)

言葉が坂道を転がるように運動して物語を建築していく。落ちてはいけない方へ転げてしまった少し未来の日本は、哀しくも自然に衰退しているのだが、するすると流れ出すのに身を任せているような言葉の連鎖が心地よく、希望がどこにも見えないのにその世界の中にいつまでも足を浸していたいような気がしてしまう。

献灯使 (講談社文庫)

献灯使 (講談社文庫)

 

本の帯によればこれはディストピア文学らしいが、仮にわたしが寿命を半永久的に伸ばして百年後の未来を生きていれば、孫世代の感覚の違いや遠い町との距離に戸惑い、自分を作り上げていた価値観を次々に疑い続けざるを得ない日常に、確かに直面するだろう。あらゆる奇妙な世界になぜか適応し、その世界なりの「希望」のような仄明るさを見出してしまうであろう人間という生き物は、ある意味不可解な存在である。

そしてわたしは、近しい未来の有様を、衰微した社会の姿で捉えていることに気づかされるのだ。

読了日:09月04日

 

 

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▼2019年9月の記録

読んだ本の数:4冊
読んだページ数:1151ページ