耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

『異常(アノマリー)』エルヴェ・ル・テリエ

※以下、ネタバレ感想

Amazon書影には載っていないけれど、帯には「あらすじ検索禁止」とでかでかと書いてあります。

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思った以上にミステリーだったのだが、何が起こっているか分かった瞬間そのミステリーは完了している。そこから読み進めるほどにじわじわ気付かされる構成の妙。それも前半の謎にたいするものだけでなくて、二重三重に仕掛けがあることにじわじわ気づかされるんですよね。(ミゼルが機内で一目惚れしたの、途中までリュシーだと思い込んで読んでたのにそうじゃなかった!とか。これは仕掛けですよね? わたしが読み違えてただけじゃないですよね?)

そこから一歩踏み込んでおもしろいのがそれぞれのエピソードの完成度の高さ。大きな物語はSF風ミステリにありつつ、さまざまなジャンルの短編小説を読んでいるような感覚。ただ全体的に恋愛が絡むものが多く、そこはわたしの偏見含みでフランスっぽい…となってしまった。家族もののストーリーでも親が当然のように恋愛してるし、特に恋愛要素じゃなくても人間性の描写できるんでない?と思うキャラ(エイドリアンとメレディスとか)も恋愛してるのがなんか……セクシー濃度濃いなと思っちゃった。

そんな中でも好きだったのはジョアンナのエピソード。これはわたしの性癖みたいなもので、三角関係で一人が身を引く話がやたら好きなんですよね。最近あんまりその手の話に触れてなかったので、久々に思い出してうるっとなりました。

全体的なストーリーの部分で「?」と思ったのは、国家が事態を把握したときに専門家集めて真っ先に「なぜそれが起こったか」の解明に走るのは違和感があった。その前にまずは人々を「どう保護するか」の議論を最優先にすべきじゃない? そう思うのは政府という存在が人命を第一にするものだと、わたしが希望を抱きすぎ? そもそも原因がわからなければどう対処すべきなのかもわからないから、ということなのか。それにしても、現行の科学で理解しえない事態が現に起こったのだとわかったとき、最先端の科学者の権威を集めるのと並行して「あらゆる宗教の宗派をカバーする神学の権威を呼ばねば!」となる発想も日本ではちょっとありえないかもしれない…と思って感心した。根本的に世界を理解するための思想として宗教が位置付けられていて、しかも対立しうる宗派が共存してる土地だからこそではないかと。

あとめっちゃくだらないといえばくだらないが、純粋に「そうなんだ〜」と思った細部。プロの殺し屋であるブレイクが周到にもう一人の自分を殺して遺体を完膚なきまでにバラバラにする局面で眉ひとつ動かさないのにもかかわらず、自身の局部を切断するときだけ精神的苦痛を覚えたとか書いてあるところ、、これは心底感覚的に分からなすぎた。「付いてる人」には分かる感覚なのか……。