『砕かれた四月』が面白かったーと書いていたらコメントでこちらもおすすめしていただいて早速。独裁型官僚社会を経験したアルバニア人作家による作品で、勤労会社員にとっては身につまされる。
イスマイル・カダレ、もっと読みたいと思ったら同じような思いであろう海外文学好きの皆さんのおかげでもう他の作品が全然手に入らなくて困っている……
「カフカ的」という言葉を彷彿とさせるような官僚的システムの不条理劇と、大国の陰でたくみにその抑圧する手をすり抜けて生き延びなければならないなかでの小国のナショナルアイデンティティ。
ファンタジー的なタイトルの理由は、社会不安が人びとの無意識である夢となって現れてくる、という。主人公は全国民が報告してくる夢をチェックする「夢宮殿」に勤めることになるのだが、この設定そのものがどこかディストピア的。実際のソ連支配下やアルバニアの独裁体制のもとで政治に携わった経験のもとに書かれているリアリティのある描写。システムに組み込まれた側の個人にとっては、「システムに順応すべきだろうか/このようなシステムがよきものであるはずがない」という矛盾する倫理観にひきさかれる。その葛藤が寒々しい冬のアルバニアの都市をモデルにした情景描写のなかで主人公マルク=アラムの憂鬱や懊悩として表現されるところが好きだった。
このマルク=アラム君、なんかどんな仕事なのかよくわからんままにコネ入庁してはみたものの、仕事むずかしすぎてこれでいいのか…と思いながら必死にやってる感をだしている(必死にやる、ではなく「やってる感を出すことをがんばる」みたいな描写に共感を禁じ得ない)ところとか、上長にアピールしようと残業してみたりとか、かと思えば休憩室で顔合わせた人に「私はキョプリュリュ家(アルバニアの名家として有名)の一員なんだ」みたいに見栄を張ってみたりしてて感情移入せざるをえない。いざ上に取り立てられてみれば、忙しすぎて偉い人になるほど体調が悪くて顔色も優れない……みたいなのとか、絶対にガタがきてるしこれでいいはずないのに巨大さゆえに立て直すこともできずになんとか回って(回されて)しまっている組織の生々しさみたいなとこが、どうにも「わかる……」となってしまう。
それでありつつ、この作品は管理社会対個人を扱ったディストピア小説だけとも言い切れない。夢宮殿〈タビル・サライ〉という名、かつて先祖が橋の人柱になったことにより「橋」の苗字を与えられた、貴族の生まれである主人公、彼の直面する反乱騒ぎ……どこかファンタジー小説のような趣を感じる古めかしく異国風な設定と現実世界との相似に、どことなくわくわくさせられてしまうからでもある。
システムのおかしさをなんとなく感じ取りながらもなんとなく順応してしまっており、内面の深いところがひどく引き裂かれていく感じは『砕かれた四月』にも共通すると思った。この著者の持ち味がそうなった理由は『夢宮殿』の解説(沼野充義氏による)でなんとなく推しはかることができるが、常に正しくあることはできないわたし自身にとってもひんやりとした共感を生む読み味だった。
