耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

2025年6月に読んだ本とか

最近のようす

6月下旬からこちら、仕事に追われてしまっている。夜な夜な在宅作業しながら「時短勤務とは……」と思い、夢の中でも仕事の課題のこと考えて朝起きた瞬間げっそりする。こういうときは読んだ本も中短編やエッセイが多くなりますな〜

それでもブログのために本の感想を書いている時間がやすらぎなので、楽しくて文章が長くなってしまった。読んだ感想ブログをどういう形式にするのがいいのか毎月悩む。

 

 

小説・エッセイ

『イエスの幼子時代』クッツェー(鴻巣友季子訳)

クッツェーは以前『恥辱』などを読んだ時はもっと懊悩が重苦しいイメージだったのだけど、今回はもっと人間のもがきの滑稽みがあっておもしろかった。p179あたりのウンチのくだりは声出して笑ってしもうた。幼子を育てると他人のウンチとは切っても切り離せない生活になるわけだが、このエピソードにかんしては子育てあんま関係なくウンチだったという……

全体を貫く物悲しさは、借り物の思想に社会がそめられて新しい考え方になじめない古い頭の人間のとまどいみたいな話しなんだろうか。子育てしながら自分も歳を重ねていく中で、否が応でも世の中に置いてかれてる感覚をおぼえずにはいられない日々なので、こういう話が他人事に思えなくなってきた。

こういう寓意に満ちてそうな話って寓意の背景知識を得て読み解くと面白いってなりそうなものなのに、この本に関しては読みとこうとすると逆につまんなく感じる。幼子ダビードの発言はいたいけな子どもの世界への問いとしてそのまま読んだ方が断然おもしろいし、新しい世界への変化に適応できないシモン対/常に若く新しい「幼子」という存在の対比も効いてくる。三兄弟の物語が出てきてダビードが三男になりたい!ってだだこねて、1は2の後にくることはできない、ってシモンが諭すシーンもあるけどしかし、その「自分が三男になりたい」欲望、つまり自分が一番若くて得してる存在でありたいエゴって、常に人間の根源にはあるものなんだよな…

ラストはもうちょい完結するかと思っていた。これは「学校時代」も読まなあかんやつやん。旅の仲間が集まってきて「俺たちの旅はこれからだ」となる感じ、『地球に散りばめられて』を思い出した。

 

『トラジェクトリー』グレゴリー・ケズナジャット

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『初子さん』赤染晶子

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『回復する人間』ハン・ガン(斎藤真理子訳)

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『ハングルへの旅』茨木のり子

詩人として有名な著者。韓国語の詩の翻訳・紹介もされていたそう(斎藤真理子さんのエッセイで知った)。これは著者が韓国語を学ぶ過程のエッセイで、詩人のすぐれた言語への感性と、日本語を母語とするもの共通の感覚でもって「となりの国の言語」を外から見られるという、幾重にも美味しい文章。

それにしても韓国語を学んでいるというだけで「なんでまた?」と言われる時代とは…。この本を買った住宅地の駅前のさして大きくもない本屋でさえ、2025年のいまでは韓国語関連書籍は語学書の棚一列をずらりと占めるほど充実している。隔世の感がありますね。

 

『文化の脱走兵』奈倉有里

先月読んだ『夕暮れに夜明けの歌を』がすごくよかったので。ロシア文学、という俗世間とはやや隔絶された世界の入り口を案内してくれながらも、文体からそこはかとなく同時代を生きる年の近い女性の雰囲気が感じられて、読みやすい。愉快に笑ったり、時にはぐっと涙がこぼれそうになったり。

子どものころ、家にお金がなかったころのエピソードさえちょっと特異な家庭環境を感じさせる(ハン・ガンも子どもの頃お金がなかった話をエッセイに書いていたが、ふつうは切なさや忍耐に満ちたエピソードになると思う)。

いっぽうで、「柏原原発を人類の当事者として考えたい」と宣言した奈倉さんの決意も、即座に受け止めて納得したお父様も、なんという親子の信頼関係だろうか、と思う。語り口の端々から文学と世界への愛が滲んでいるのが、なんとも素敵な方だ。

 

『軽いめまい』金井美恵子

90年代の専業主婦の日常を特異な文体で書いた小説で、最近英語圏で評価が高まっているとのことで読んでみた。たぶんこれを評価している人と著者が共有している文化的知識をわたし自身は持ち合わせていないのでここで語れることはあまりないのだけれど、それはそれとしてついつい引きずられてしまうような独特の句点の少ない文章、日常の暮らしにまつわる考え事や動作と社会的な思考や会話とが並列に同じ一文のなかにあらわれていながらも、決して読みづらさがなく崩壊することもなく、読み手の興味を削ぐことすらないというのは確かに考えてみれば驚異的なことだ。

 

『砂糖の世界史』川北稔

岩波ジュニア新書の名著として紹介されることが多いので読んでみた。現在の一部の国における物質的豊かさは、他の国や地域に安価な労働を押し付けてきたことで存在する。昨今ではファストファッション問題などもあり、かなり広く当たり前に課題として共有されていることではあるけれど。もっと早く読んでいれば蒙が啓かれる思いだったろうけど、今だに古びないというか、今だからこそもっと読まれるべき本でもあり続けている。

 

舞台

ミュージカル『二都物語』

吸水力の高いハンカチ持って行ってよかったです。

sanasanagi.hatenablog.jp

福井晶一さんの歌声を聴いてバルジャンまた観たいよ~と思ってしまった。本の話題と関連付けていうと、作家の小川洋子さん一押しのミュージカル俳優が福井晶一さんです。小川洋子さんが舞台を題材にして書いた『掌に眠る舞台』を積んでいるので来月は読みたいな~。