耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

山内マリコ『あのこは貴族』

流行りものの類の本だとは思うのだけど、ふと読みたくなって図書館で借りてきた。

解説で雨宮まみさんに言い当てられたように、格差や女子同士のマウンティングみたいなものを書いた話なのであれば嫌だなあという思い込みがあり避けてしまっていたのだが、確かにそういう作品ではなかった。

ただ20代のころ、わたし自身にもまだ東京でずっと暮らす「可能性」があったときにはこういう本を読みたくないと思っていた直感は、ある意味当たっていたと思う。

正解だったかはいざ知らず。

わたしの場合は東京にさほど思い入れがないままに1年ちょっとだけ偶然仕事の都合で東京に住むことになり、もう少し長くいれば人生は別の方へ転がるかもしれないなあと思いながらも、当時付き合っていた人と結婚しないことが考えられなかったのでそのために大阪へ戻ったのだった。現在暮らしている土地は小説の中に登場する田舎ほどは閉鎖的ではなく、交友関係の狭さを嘆くことができるほど他人との密なコミュニケーションも存在しない。東京にいる人がよくいう「欲望の渦巻く街」という感覚は、住んだ身としては確かにわかるのだが、大阪へ戻ってきてしまえば繁華街に出ない限りあまり感じなくて済むのでピンとこなくなっている。

やはり数年前に読んでいたら別の感想を持っていただろうと思う。今となっては所帯を持っているので、独身のときのようにどこにいようがどこにでも行ける可能性があるはずなのに実際には諸々のしがらみや自分自身の安定志向などのためどこへでも行けるわけではないモヤモヤした気持ちを抱えることもない。わたしの物語は、あえて分類するとするならもうこの小説のエピローグのそのまた後の話になるだろう。

ただ、どんな人生でも自分で腹を括って前向きに進むエピローグを描いてくれていてほっとした。