耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

自分のためにジュエリーを買う

 妊娠中、家にこもりっぱなしでキラキラに飢えていたため、「人生の節目に一生もののジュエリーが欲しい!」という気分が盛り上がった。

そのたび、SNSや雑誌、オンラインでのリサーチを繰り返した。が、家にいてインターネットばかり見ていると自分の本当に欲しいものが段々分からなくなってくる。

「あれもこれも素敵」「でも、わたしには不相応なのでは?」「今までブランド物なんか全然持っていなかったので、どんな恰好でお店に行ったらいいのか分からない」「産休に入るまでがんばって働いたのだ。ひとつ形に残るものを思い切って買いたい」などなど、雑念があぶくのように頭の中でポコポコと浮かんでは消え、混乱する日々。

そのいきおいあまってブログにも欲しいものリストを書いたりした。

sanasanagi.hatenablog.jp

(ジュエリーに関心のあるオシャレな方々からのアクセスがいまだに毎日あるのだが、たぶんご期待に沿わないであろう地味なブログで申し訳ない)

そして昨年末にとうとう購入した物が手元に届いたので、ここに顛末を記す。


上のブログで欲しいものリストを作ったときは、とにかく欲望のおもむくままにオンラインで欲しいなと思ったものをリストアップした。でもその後、定番品でないものは買えなくなってしまったり、熱がさめて欲しい気持ちが鎮火してしまったりした。

そして、ジュエリー好きの人のインスタグラムやブログ、雑誌の特集などを見るほどに、わたしのような初心者は、昔からある定番の有名な品の方を買う方が長く使えるのかなあと悩んだ(暇だったのだろう)。

わたしはこの先たぶんもうハイブランドのジュエリーを買う予定はなくて、ピアスにリングにネックレス…とそれぞれ「買い揃えていく」みたいな感覚で買い物をすることはできない。

たとえばヴァンクリーフ&アーペルアルハンブラシリーズなんて人気だしかわいいけど、1つゲットしたら大きさや色違いで次々と欲しくなってしまいそう(おまけに毎年ホリデーシーズンに限定品も出ているし…)。

また、指輪にブレスレット、ピアスとイヤカフ、ネックレスの長短などのコーディネートを毎日取っ替え引っ替えするような余裕もない。

それに、自分の生活環境を考えたときに、ジュエリーが必要な改まった場所に出席する「ハレの日」はごくわずか。結婚式とか、会社の互礼会とか、我が子の式典とか、そんな感じだと思う。そういう日に堂々と着けていける物はといえば、既に持っているパールのネックレスとピアスのセット、それに結婚指輪と婚約指輪があれば十分だ。

そういうシーンだけではなくて、日々の仕事でちょっと気合を入れたいとか、おしゃれしてお出かけをするような時に着ける、自分らしく気持ちを高めてくれる品が欲しいなと思った。

だから、人気で評価の高い物や重ねづけを前提とした物というよりも、憧れのブランドで、なおかつ自分が身につけていて心が弾むような物、という基準で選ぶことにした。

 

その視点で、まずはカテゴリーの絞り込みを行った。主体は自分なので、いちばん自分の視界に入りやすい手元のアクセサリーに決めた。そのため、ピアスやネックレスは除外。ブレスレットと腕時計は気に入ったものを既に持っているため、指輪を購入することに。

また、わたしは以前から頻繁に手を洗う癖があり、多少水に濡れても平気な物が良い。そうでなくてもガサツな性格だから、うっかりあちこちぶつけてしまうだろう。よって、パールや白蝶貝、繊細な色石などが付いたものは除外した。

 

そして、最終的に購入に至ったのはこの指輪だった。

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ショーメのリアンセデュクシオン。

 

といっても本当は、まんなかのダイヤがついてない地金のみのバージョンが欲しかったのだ(予算の都合上)。

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ところが、わたしがアレコレ悩んでいる間にいつのまにか廃盤になっていたそうなのだ。そしてダイヤありのバージョンも、わたしの指にぴったりの号数は国内在庫が無いとのこと。

この時点で、既にほぼ諦めムードだったのだけれど、とにかくこのリボンのデザインはかわいすぎる!せっかくお店に来たのだから試着はさせてもらおう!

そんな気持ちで、薬指には少し大きく、中指や人差し指には小さすぎるサイズの指輪をはめさせてもらった。

その瞬間、なんともまあ可愛くて、可愛くて。『ロード・オブ・ザ・リング』で主人公フロドが魔法の指輪をはめた瞬間、指輪の魔力にとらわれて外したくなくなってしまうシーンがあるが、それが思い出される。

 

思わず笑顔がこぼれ、「かわいい♡」と声が漏れたわたし。店員さんはすかさず、オーダーすればぴったりサイズの品物が手に入ること、ただしこの商品は製作している数が少なく、フランスからの入荷が最長で半年以上かかってしまう可能性があることを教えてくれた。

半年…。そう聞いて迷ったけれど、むしろ今すぐ手に入ったとしても、育休中だから赤ちゃんを傷つけるような指輪ははめられないし、お出かけする予定もそうそうないから、別にかまわないような気がした。でも、ダイヤ付きになったことでお値段が上がるのはどうしよう。そもそも結婚指輪以来ジュエリーショップを訪れたこともなかったわたしは、この指輪をつけるのにふさわしい女なのか…?という疑問も頭をよぎる。

何回もリングをはめたり外したりしてニヤニヤしながら悩むわたしに、店員さんは言った。「本当に気に入ったものを着けているときの内面から滲み出る美しさも、ジュエリーを着ける魅力のひとつだと思います」と。

 

考えてみれば、毎日洗濯乾燥機で洗えること重視の服に、バッグは何シーズンも前に買ったノーブランド、産後の抜け毛で頭は鳥の雛のよう、度重なる手洗いで爪は乾燥してカサカサ、そんなボロっちい見た目のわたしのような客も、やさしく受け入れ、心地よく接客し、あたかも重要人物であるかのように丁重に扱ってくれた店員さん。あなたがそう言ってくださるのなら、わたしはここに来た日の思い出ごと、この指輪を大切に愛で、この先の人生、がんばって生きていきましょう。なんだかそんな気持ちになり、わたしは購入を決めていた。他の指輪は試着することもないまま。

 

結局、半年待つのを覚悟していたものの、指輪は1ヶ月後に届いた。

手元にきた指輪を初めて着けた日、つややかな鏡面仕上げの指輪は、ひんやりと少しよそよそしかった。でも、1日はめているうちに、エレガントな存在感を発揮しつつ、乾燥して疲れたシワっぽい手をやんわり受け止めてくれる、ふところの深さを発揮してくれた。リラックス度高めのカジュアルファッションにも意外となじんでいる(※購入者の主観による感想)。

鏡に映して遠目に見るとそれほど甘くなく、きらめきとピンクゴールドのあたたかみを手元に添えている。何より、曲線を描いたリボン状の立体的なラインが、正面から見ても横から見ても美しい。それでいて隙間から左右非対称に肌が見えるのも、抜け感があって良い。まるでリングがわたしにウインクしてくれているかのようだ(※購入者の主観による感想です)。

 

毎日つけて過ごすというわけにはいかないけれど、時折ジュエリーボックスを開けて眺めたり、お出かけするときに指に着けていると、その存在を感じるだけでウキウキと心を浮き立たせてくれる。

はあ〜、かわいいのう。

 

旅行や観劇のチケットなどにお金を使ったときは「当日が楽しみだなあ!当日まで健康に過ごそう!」と思ったものだが、こういう装飾品を買うと、一日でも長く生きて、一秒でも長く使いたい、という気持ちになってくる。ジュエリーは精神的健康の源なのかもしれない。