耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

2020年10月に読んだ本

10月のようす

今まで読んだことがなかった『源氏物語』に着手。挫折する予感しかしなかったのでとにかく読みやすいと評判の角田光代訳に。しかし10月中旬にマリー・アントワネットの命日があったのでツヴァイクの『マリー・アントワネット』を読み返していたら、そのまま自分の関心が欧州方面に向かって戻ってこられなくなってしまった。読書ってそういうことありますよね(?)。

本の他はニンテンドースイッチの「グノーシア」というゲームに夢中になっていた。宇宙船に閉じ込められた若者たちがその中に紛れ込んだ「グノーシア」という人喰い人種を探し出すというゲームで、実際のシステムは人狼ゲームそのもの。ストーリー的にはSFのような設定で、主人公は何回もタイムループして毎回違う設定の人狼ゲームを繰り返しながら、その度ごとに変わる「グノーシア(=人狼)」の正体を当てていく。のだけど、実のところ人狼ゲームとは別の軸で「なぜ、自分はタイムループしているのか?」という大きな謎を解くのがストーリーの終着点。そのためには必ずしも人狼ゲームで勝ち続けていれば良いわけでもなく、さまざまなシーンをあえて経験してヒントを集めなくてはいけないのである…というのがめちゃくちゃ面白くてハマってしまっていた。

 

 

源氏物語 上 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集04)
源氏物語 上 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集04)

源氏物語 上 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集04)

  • 発売日: 2017/09/08
  • メディア: 単行本
 

一度は通読してみたいと思っていた源氏物語。「短期間で駆け抜けるように読むことで見えるものがあるのでは」というのがコンセプトの一つとなっている角田訳。
あれこれと悩んでは光君と関わりを持つ(あるいは持たない)女たちの思いや誇り高さは個性を感じ面白く読める一方、光君はちょっと他人の感情というものに誠実に向き合う気持ちが欠けているのではと思う。現代の感覚で彼の行動をジャッジするのはナンセンスにせよ、生まれつき「持てる者」がそうではない者と接するときの残酷さ、身勝手さのようなものが垣間見える気がしてしまう。女たちに対してはともかく、若いころから仲良くしていた頭の中将(当時)の気持ちさえ思いやれないのは呆れる。そういうところが職場(宮廷)での振舞いにも出ていたから、明石に流されて泣くはめになったのでは…。
光君が少し老いかかって、成長した玉鬘や夕霧の行く末をあれこれ案じ始めたあたりで、光君が話の中心でなくなった方がはるかに面白い。物語が軌道に乗ってきたのかなあというかんじがする。光君は主人公ということになっているけど、実際にはこの物語を連ねる玉結びの糸みたいなものにすぎないのかもしれない、などと思いながら読んでいる。

読了日:10月08日

 

チェスの話――ツヴァイク短篇選 (大人の本棚)
チェスの話――ツヴァイク短篇選 (大人の本棚)

チェスの話――ツヴァイク短篇選 (大人の本棚)

 

偏執的に自身の知的世界に没頭する人たちは、戦時下では恵まれぬ環境で悲哀とともに生きることになる。収録作三作はいずれもそんな人の姿を描いた話。本当はそうした人びとの存在こそが人類の豊かな広がりを約束してくれていると思うのだけれど…。わたしはツヴァイクの文章にある、人間の中の善なるものへの信頼というのか、人間の精神の中には必ず光がどこかに見出せる、と感じさせるところが好きだ。
読了日:10月17日

 

女の二十四時間―― ツヴァイク短篇選 (大人の本棚)
女の二十四時間―― ツヴァイク短篇選 (大人の本棚)
 

収録作『圧迫』は反戦の信念を持ってスイスへ逃れたはずが、徴兵の令状を受取り苦悩する芸術家の話。同じ死ぬなら信念に従って死んだほうがいいと、頭では思っていても人は大きなものに従う方に進みたくなってしまう。ミルグラム服従の心理』を思い出したけれど、第一次大戦の時点でツヴァイクはその人間の本質を見抜いていた。主人公の妻が、あれだけ言葉を尽くして身を投げ打って引き留めても彼を止められず、結局彼は負傷兵の惨状を目のあたりにするまで我に返ることができなかった、というのは言葉の無力さを物語っているようで悲しい。
読了日:10月31日

 

イアン マキューアン『憂鬱な10か月』 (新潮クレスト・ブックス)
憂鬱な10か月 (新潮クレスト・ブックス)

憂鬱な10か月 (新潮クレスト・ブックス)

 

著者が「休暇」のため珍しくほとんど取材をせずに書いた話らしいが、確かに。
母親のお腹にいる胎児が大人顔負けのインテリぶりを発揮しながら、大人たちの渡る世間の愛憎劇をいささか皮肉げに語るという細部はかなり面白かったのだが、それにしてもこの母親が、臨月のいつ産まれてもおかしくない時期になっても医者に通うでもなく、産後確実に必要になるであろう細々とした物も一切買わず、部屋は自分のもので散らかし放題の妊婦。まあ、彼女が夫と浮気相手との関係に悩まされてそれどころではなかったと解釈できたとしても、しかしそうだとすればなおさら、いざ産まれるというときになって突然出産について助産師なみの知識を発揮し、陣痛のかたわらテキパキと他人に指示を出したり、それどころか激痛のさなか駆け引きの交渉をしたりするなどという場面への違和感がすごい。ポッドキャスト胎教により高度な知識と思考力を兼ね備えた胎児の語りである大部分は楽しめたのだが…。マキューアンの持ち味は繊細な心理描写だと思っていただけに、この母親に関しては何を考えているのかわからず消化不良な印象だった。

読了日:10月22日

 


読書メーター
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読んだページ数:1437ページ

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