耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

2020年9月に読んだ本

9月のようす

テレビドラマ「MIU404」と「半沢直樹」が面白くて毎週めちゃくちゃ楽しみにみていたので、終わってしまった9月はさみしかった。どちらもとても流行っていて、お笑い芸人のラジオ聴いてても結構ドラマの話をよくしていた気がする。半沢はストーリーも面白いんだけど「おお…いい年した男性がこんな感情をあらわにしている…」というのが個人的には萌えポイントだった。毎週夫とキャッキャしながらみていた。

「MIU404」は警察の部隊を描いたドラマで、この現代日本における正義とは?善悪とは? というテーマを突き詰めて、考えさせて、最終的には希望を持たせてくれる終わり方。つらくて重いシーンもあったのだけど、でもやっぱり人と人は助け合うのが楽しいし、トクだし、サイコーだねって話だった。正義ってほんとうは、だれのため? 答えは物語を追いかけた時間の中にあった。大好きな人と今、ここで、一緒にいる時間が楽しくて、その人たちと一緒に生き延びたいから。たとえ社会的には弱者でも、感情があって意思があって行動して世界を変えられる。どんなちっぽけな力でもその選択で世界を変えられるんだ、と思った。

のっけから長々ドラマの話をしてしまったが、以下本の話。

 

イアン・マキューアン『初夜』 (新潮クレスト・ブックス)
初夜 (新潮クレスト・ブックス)

初夜 (新潮クレスト・ブックス)

 

1960年代、まだ性へのタブー意識が強かった時代の、ある夫婦の結婚初夜をえがいた短くて繊細な小説。冷静に人生を俯瞰すれば、相手との向き合い方も違っていただろうに、どうしてもそうできなかった瞬間の心の動きがこれでもかとまでに、丁寧に描かれる。
時代の感覚は当然あるのだろうし、育ってきた環境の中で自分の性をどう意識してきたかでもセックスに対する感覚は異なっているはず。その理解すら及ばないのも、若さや周囲の雰囲気ゆえの想像力や知識の欠如があるのだろうな。こういった「わかりあえなさ」を丹念に積み上げた小説が、どうも好きみたいだ。

読了日:09月09日

 

ウィリアム サローヤン『僕の名はアラム』 (新潮文庫
僕の名はアラム (新潮文庫)

僕の名はアラム (新潮文庫)

 

中学生のころ、教材としてこの本の中の一編を原文で読んだことを思い出した。そのときには「変わり者のおじさんコースローフ」などをどう訳していいのかわからず困惑していたのだけれど、さすが名翻訳家・柴田元幸氏の手にかかるとこんなにも味わい深いお話になるのか…。
少年アラムの視線を通して語られる、カリフォルニアの小さな町に住むアルメニア系移民の一家の物語連作。大きな事件も起こらず、歴史的悲劇にも焦点が当たることなく、少年の視点に立って気楽に笑いながら読める。社会性や生活の才にはとぼしい、ちょっぴり変人なおじさんたちの行動に、詩情や哀愁を感じられるのがなんとも良い。

読了日:09月13日

 

ケイト・モートン『忘れられた花園』
忘れられた花園〈上〉 (創元推理文庫)

忘れられた花園〈上〉 (創元推理文庫)

 
忘れられた花園〈下〉 (創元推理文庫)

忘れられた花園〈下〉 (創元推理文庫)

 

20世紀初頭から現代にかけて、3世代にわたる女性たちの生きた時代を行き来し、出生の秘密を辿っていく。
物語には引き込む力があるし、光り輝くような秘密の花園の描写や、散りばめられた古典名作のモチーフにもわくわくする。でもなんだか最後まで乗り切れずに読み終わってしまった。2000年代のパートを入れるなら、不気味な魔女は凄惨な死に方をしました…みたいな逸話にはもうひとひねり欲しかったように思ってしまったし、育ての親に何不自由なく幸福に育てられたのに素性を知った瞬間掌を返すように心を閉ざしたネルが、どんなふうに自分の人生を受け入れていったのかこそ、じつは謎解きよりも書かれるべき部分だったんじゃないかという気がして。
「うーん…」と思っていたら、あとがきで訳者と編集者も作中の細部にツッコミを入れていたのでちょっと面白かった。これだけの長さの物語を破綻なく構成するのは並の所業ではないとはいえ、大雑把な小説だったなという印象が拭えない。

読了日:09月05日


読書メーター
読んだ本の数:4冊
読んだページ数:1252ページ

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