耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

最近よんだ漫画 2020年4〜6月

最近はひたすらiPadで漫画を買ってよんでいた。6月はあまり活字の本を読まなかったので、たまには漫画のまとめ。

 

田村由美作品
  • 『ミステリと言う勿れ』 1〜6/連載中既刊6
  • 7SEEDS』1〜35+外伝1巻 完結済 

『ミステリと言う勿れ』は大好きな本屋さん(日比谷コテージ)の棚で見かけて、アフロのキラキラ青年がいる最新刊の表紙が気になっていた。たしかにミステリ仕立てなのだけど現代社会で疎外されがちな人への問題意識を伝えたいというのがテーマのような気がする。
そのあと同作者の『7SEEDS』1~4巻が期間限定無料になっていたのを発見、続きが気になりすぎて途中で止めることができずに、36巻分を3日で読んでしまったのだった。20年くらい前から連載していて近年完結し、アニメ化もされていたらしい。今まで作品名だけは聞いたことがあったのに、なんとなくガンダムSEEDと混同していて読む気がなかったわたしはばか。緩急はあるけど飽きる間がないのがすごい。

7SEEDS(1) (フラワーコミックスα)

7SEEDS(1) (フラワーコミックスα)

 

7SEEDS』は、文明が崩壊し人類がいなくなった後の世界に残された若者たちが、生態系すら変化した日本でどうやって生き延びるかという話。わたしが端的にまとめるとぜんぜんおもしろそうじゃないんだけど、読むとめちゃくちゃおもしろいんですよ。

そもそもが「希望を託されて人類の終末を生き残った若者たちの物語」なので、全体を通してのメッセージは力強く前を向けるもの。個々のエピソードには鬱展開もあるし死体描写や得体の知れない虫描写も多々だけど、それでもすべての生命がどんなに短くてもはかなくても意味があってもなくても、ただ生きた、存在した、というそれだけのことを肯定できる。
そして生き延びるために必要なたくさんのことを教えてくれる……水電気食料のない環境での文字通りのサバイバル術、だけではなくて、安全圏にいる時にはうっかり「不要不急」と切り捨てかねない人類の知恵の中にこそ、人が死なないための知恵が詰まっているんだよ、ということを。

近未来SFっぽい話の中でもしっかり10代の青春っぽいエピソードが描かれているのもよい。「優秀な遺伝子を残すため選ばれた」という設定上、めちゃくちゃおとなっぽい高校生ばっかりが登場するのだけど、滅亡前の世界でのいわゆる「優秀」な子たちでも「人生に大切なものとはなんなのか」の分かっていなさがまちまちで、成長し変化していくのをきっちり描いていることにも感動する。
とはいえ、実は全体を通した主人公は引っ込み思案でウジウジしていてサバイバルなんて考えたこともないような弱い女の子。彼女の初めての恋、そして自分の恋がエゴであることの気づきと成長も描かれているのだ。こういう引っ込み思案系主人公の成長を「見守る」視点で読んでしまうあたり、自分も少しは大人になったのかな。

人が生き続けるためには他者の存在が必要だし、この弱い人間というものが生き残るためには他人を蹴落とすのではなく協力することが絶対に必要、ということを数々の恐ろしい失敗例とともに描いているのでめっちゃこわいしめっちゃ説得力がある。豊富なエピソードの細部こそが魅力なので、ここでざっくりまとめようとすると何も語ってないのに等しい感想になってしまうけど。

 

花のズボラ飯
花のズボラ飯(3)(書籍扱いコミックス)

花のズボラ飯(3)(書籍扱いコミックス)

 

数年前に1~2巻を読んでいたズボラ飯の3巻が出ていたのを知りこれを機に購入。夫が単身赴任中の主婦である花が自分のために作るズボラ飯の数々は、ズボラだけれど手抜きではない。自分だけのための食事だから、作ることを頑張ったりはしないけれど、最低限の労力のなかに自分を楽しませることにも手を抜かない、という絶妙な工夫の塩梅。レシピ漫画でありグルメ漫画(原作者は『孤独のグルメ』の作者の方です)。白黒の絵なのに花のつくるごはんはどうしてこんなにおいしそうなのか……そしておいしそうにほおばる花のかわいさには、こちらの顔までほころぶ。

 

違国日記1~5/連載中既刊5巻
違国日記 コミック 1-5巻セット

違国日記 コミック 1-5巻セット

 

大好きな本屋さん(日比谷コテージ)の棚やネットでよく見かけて気になっていた違国日記。30代独身一人暮らしで少女小説作家の槙生は生きるのに孤独が欠かせない人なのだが、親を亡くした姪っ子の高校生、朝と同居することになって……という話。
親子ではない、年齢差のある同性どうしがどのようにして人間関係を築けるか、というテーマの話は、自分自身が十代のころに大好きで見ていたものにもあった(おぼえているのはNHKドラマでやっていた『ニコニコ日記』や『ちょっと待って、神様』)。この手の設定って恋愛以上に人物の成長や葛藤を浮き彫りにするのかな。
自分がおとなになる途上の年齢だったときには、おとなだからって完璧じゃないんだ、それが当然なんだということに気づけた気がするし、自分が年上の側の人間(違国日記なら槙生)と同年代になったいまでも、若い人は自分より下の立場にいるわけではなく、自分とは別の考えを持つ他人だと思える。
そして自分の欠けている部分に一番気づかせてくれるのは近くにいる他人だという気がする。

 

世界で一番、俺が○○ 8(連載中最新巻) 

最近では唯一最新巻を追っている漫画が出たのだった。濃くて複雑で実験的な人間関係に圧倒され、時には涙し、脳が混乱し、毎回刺激的な読書体験を味わっている水城せとな作品。基本はまとめ読み派なのですが、先が気になるのでこれだけは新刊が出るたびに読んでいます。

この『世界で一番、俺が○○』は幼馴染の3人の青年がある日突然「自分が一番不幸になったら勝つゲーム」に参加することになって…という話。
性格も環境も社会的に手にしているカードも三者三様、まるで三すくみのように互いに無いものねだりをしようと思えばできるギリギリのバランスで、でも友情を保っている3人の関係。これがもし同じ状況で女性職場3人だったら、カフェで集って、いろいろあった後でもそれなりの和気藹々さで会話できている状況ってありうるんだろうか。アニメ制作のブラック職場でやりがい搾取されている小太郎や、ニートで何の仕事も続かない啓太がもうすこしウェットに見えてしまう気がするし、高学歴高収入で一見すると非の打ち所がない柊吾の、嫌味なくリアルな造形がピンとこなさそう。
というより、そもそも女たちは自分が一番不幸になるゲームに参加するだろうか? ぼんやりしてると選ぶ余地なく「自分が一番幸せになるゲーム」に参加させられて息を詰まらせているというのに? …ということを考え出すと実はこれって、社会の無意識下にひそむ幸福の定義にまつわるジェンダー差を炙り出す装置だったのかもしれない……。

そして気になる謎の組織「セカイ」の真相、『放課後保健室』のときみたいな美しくて圧倒的説得力のどんでん返しがあるのではないかと思っている。が、今調べたら現在休載中とのことでびっくりした。ものすごく残念だけど、それよりクライマックス直前で休載、というビックリの方が大きい。

 

アラサー恋愛もの

  • 凪のお暇 1〜7/既刊7巻中
  • セクシー田中さん 1〜2 /既刊2巻中

恋愛漫画といえば高校生が主人公、という脳から抜け出せていないわたし、自分と同年代のあれこれは漫画ではもう読めないと思い込んでいたが全然そんなことはなかった。このほかにも何冊か読んだけど段々飽きてきて、1巻で脱落したものは割愛。

それにしても大人の恋愛まんがは本当に「食」のシーンが多い。誰かと一緒にいるということが生活と不可分になってきているということか。『凪のお暇』に見える凪の芯の強さも、お金がなくてもいろいろ工夫して食や暮らしを楽しめることにあるんじゃないかなあ。自分はそういう種の生きるチカラみたいなものがないから(心底ほしいと思ったこともまあ、ないのだが)ちょっとうらやましくもあり、コンプレックスでもあり。

凪のお暇 7 (A.L.C. DX)

凪のお暇 7 (A.L.C. DX)

 

 

『セクシー田中さん』はタイトルからしてギャグ漫画なのかな?と思って読み始めたのに、(確かに笑えるシーンは多いけど)「年を重ねたって自分らしく生きられる」というメッセージをドストレートに伝えてくる作品で、感動してしまった。その裏返しで、「この社会では、年を重ねると、自分のやりたいことを狭めて、我慢して生きなければならない」という抑圧を無意識のうちに自分も感じていたことに気づかされる。
この漫画に関しては、恋愛要素はあるけれどもわたしは結構どうでもよく思いながら読んでいて、それよりも田中さんと朱里という歳の離れた女2人の関係の方が気になっている。わたしは実は恋愛よりも女友達の話が読みたいのかもしれない。

 

『銀河の死なない子供たちへ』上・下 

何年か前に読んだ『オンノジ』がすきだったのを思い出し、同じ作者の作品を探した。この方の思想の根底に手塚治虫の『火の鳥』の影響をめちゃくちゃ感じる……、と思っていたら手塚治虫の名を冠した賞を獲られていた方だった。
本作は不死という究極の孤独のなかで、そもそもの生きることの意味を問う思考実験のようなものだと理解。ともすれば暗くなりそうな内向的な漫画なのだけど、あどけない素朴な絵柄のテイストのせいで、素直にその奥深さに思考が向かう。(といっても急に血がめっちゃ出たりしてびっくりするのだが)
作者のアンサーが苦悩と内省とに裏打ちされたものだと思うからこそ、感動で胸を圧される。人生の単調さ、平凡さに気づき、憂鬱を抱えている人に響くのでは、と思う。

 

Piece 1〜3
Piece 3 (フラワーコミックス)

Piece 3 (フラワーコミックス)

 

 セクシー田中さんが良かったので同作者の完結作品に手を出したらこちらはコミカル成分薄めの恋愛もの。登場人物たちは未熟な香りのするハイティーン、共依存関係の男女を描いており、良作なのかもしれないし続きは気になるのだが、なんとなく今の自分の中に引っかかるものがなくて止まっている。でも話の続きは気になるので、次の「漫画読みたい期」がきたら読むかも。