耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

一人旅には向かない人間

年に一度ぐらい海外の街をひとりでうろついているのだが、事前に調べていた行きたい場所にすんなりと着けることはまずない。地図を見て歩いては方向を間違え、他人に尋ねて歩いては曲がり角を間違える。買いものを楽しもうとして行ったはずが、目的はいつのまにか散歩にすり替わっている。

友達と一緒の旅行ならこんなふうに目標を見失うことはないのだが、ひとりだと迷ったことを認めたくないのか、すぐに目的地に着くことを忘れてしまう。

別に他人と約束しているわけではないからどこに行ったっていいのが一人旅の醍醐味、とされてはいるものの、こういうゆるふわなスタンスは本当は一人旅には向かないのではないだろうか。自らを律し、何が何でも目的地へ向かうという強い意志をもって行きたい場所を目指し続けるストイックさを持つ者こそ、充実した旅行時間を過ごすことができるのだ。

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カメラロールに残されている単調な道のりの写真。

 

要領のわるい旅行

先週は初めての韓国に一泊二日で行ってきたのだが、まったく要領のわるい旅行だった。

はじめに断っておくけれどこれは失敗する旅行の例を述べた日記である。

 

そもそも飛行機が昼の12:50着の予定だったのに、1時間遅延して14:00着になったところから暗雲がたちこめていた。

入国手続きや移動など諸々あり、15時すぎにようやく、ソウル市内の繁華街である弘大という駅へ着く。

ここは若者たちのおしゃれ街らしく(弘益大学前にあるから弘大というらしい)、若干ショッピングをする。

しかしその後17時開演のミュージカルに向かうため、買い物時間は30分程度の弾丸トラベラー状態。(弾丸トラベラーとは、モデルや芸能人が週末の短い期間で海外旅行へ行きおしゃれなお土産を買いまくるという10年程前のテレビ番組である。)

それでも気になっていたアクセサリー屋さんを奇跡的に発見できたため、すこしは買い物をたのしむことができた。

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「ソウル アクセサリー」で検索したらすぐに出てくる、「時空間」というお店。その名の通り時空の狭間に落込んだかのような店構えのおしゃれな場所だった。

www.sigonggan.com

 

しかしその後、今回の主目的である劇場には、ダッシュで向かったのに遅刻。

しかもなんと事前予約チケットを受け取るためのカウンターも閉ざされている。

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閉ざされているチケットカウンター

途中から観ることもできないのか………とさすがに泣きそうになっていたところ、突然どやどやと外に出てくる観客たち。

ここでようやく、17時開演というのはわたしの勘違いで、19時開演だったことに気づく。なんという初歩的な勘違いだろうか。

こんなことならもっと弘大でゆっくり服を見てきたかった…

 

甘いものよりは辛いものを食べたい

とにかく、昼ごはんを食べていなかったので、劇場の隣の百貨店の地下のフードコートのような場所(イメージ的には大阪梅田にある阪急三番街のような感じだった)を見つける。 

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キムチチゲを食べ、心を落ち着かせた。

どちらかといえば甘党より辛党なのだが、辛いものが得意かといえば決してそんなことはない。家の近所で贔屓にしている坦々麺の店でさえ、いつも一番辛くない「普通辛」を頼んでいる。

そういう生ぬるい辛党のわたしにとっては、さすがに韓国のキムチチゲは辛い。ふたくちめから早くも鼻水が止めどなく流れ始め、目が熱くなってくる。

テレビのグルメレポートなどで、激辛のものを食べた人が咳込むリアクションを取るのがいつも不思議だったのだけど、初めてわかった。熱くて辛いものを食べると、口の中でハフハフしている間に刺激物の混じった蒸気が喉の方へ流れ込み、気管の方が刺激されて咳込んでしまうのだ。そんな学びがある。

とはいえこのキムチチゲ、すこし冷めてきてみると辛いだけでなく挽き肉の旨味もあっておいしい。最終的にはスープもすくって飲んでいた。これが大丈夫だったなら次回は近所の坦々麺の辛さもワンランク上げてみようという自信をつける。

 

はじめての韓国ミュージカル

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去年の今頃はこの演目のために毎週帝国劇場へ出かけていた思い出の作品…。

韓国キャストさんたちの歌声の音圧や迫力とか、オルレアンの悪の華っぷりとか、レオナールのキャラが濃いとか、ロベスピエールのビジュアルが史実っぽいとか、いろいろ書きたいことはあるのだけど、日本版と比べてやっぱりいちばんちがうのはマリー・アントワネット

日本版(と、いうより花總さん)のマリーは「愛されないことに傷つきながらも、尊厳を貫いた」王妃だとわたしは思っているのだけど、この日観たキム・ソヒャンさんのマリーは「愛したことを支えに一人の人間として生き抜いた」王妃だなと強く感じた。花總マリーの生き方を象徴するような『孤独のドレス』がまったくちがう曲になっていて驚きつつ、確かにこちらのマリーには「孤独」は似つかわしくないなと。それどころかむしろ、エリザベートの『私だけに』ばりに歌い上げ、彼女ひとりで革命下の世界を生き抜きそうなエネルギーさえ感じる一曲になっていた。あなたのいない孤独を噛みしめるというよりは、ひとりでも私は私の信じるように生きるわ、というマリー・アントワネットだった。

カーテンコールは日本よりもあっさりだったけど、マリーがマルグリットの前に腰をかがめて手にくちづけたのを見られて、わたしは大変胸がいっぱいになってしまった。

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ちゃっかり受け取ったディシエーヌ親父のアジビラ。英語だけど、例の歌の歌詞が書いてあるんですね

 

今回の宿泊先

終演が22時で、移動して宿に着いたのが23時。

夜遅くに到着して迷惑をかけたにも関わらず、ゲストハウスのご主人が夜食を出してくれた。

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写真のパンプキンケーキと、ラーメンを他の宿泊客の学生さんたちと一緒にすする。

一人で旅行していると誰ともしゃべらず鬱々とすることが多いので、話し相手ができたのはとてもありがたかった。

学生さんたちはこの土日にある学会のために台湾と中国から来ていたらしい。たどたどしくつたない英語のわたしに対しても、丁寧かつ簡単な英語で研究のことについて話してくれ、知性と誠実さを感じる。

こういうゲストハウスのようなドミトリーのような場所に泊まったのは初めてなのだけど(そもそもBooking.comで普通のホテルと間違えて予約した)、大学生とかもっと若いときに泊まっていたら、もしかするとバックパッカーにのめりこむ二十代になっていたのかもしれない。しかし今以上に人見知りだった過去のわたしは、こういう場所ですら他人を拒絶していた可能性もあるが…。そう思うと、少しは他人と関わることにたいして力が抜けてきたのかなあと思えもする。三十近くなってようやくという感じではあるが。

 

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お部屋に絵画も飾ってあっておしゃれ。季節ごとに掛け替えているのかなあ。

最近、自宅にも絵を飾りたいと思って、現代のアーティストを探しているところだったので、これもだれの絵かきいてみたのだけど、ご主人も覚えていないそうだ。

 

海外のスーパーはたのしい

二日めは、カロスキルというおしゃれな通りがあると聞き、今度こそおしゃれなお店を見たかったのだけど、お店が開くのは11時や12時。

そこで、午前中は宿から徒歩圏内にあったスーパーマーケットへ行くことに。おしゃれパッケージの歯磨き粉がまとめ売りされていたので、つい買ってしまった。海外のスーパーはたのしい。

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その後、目的地まで歩いて行こうかなと思っていたら、ルイ・ヴィトンのオブジェの近くを通りすがるファッショナブルな犬に気を取られて道を間違えてしまった。

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なぜ迷子になり続けるのか

しばらく歩いて、間違えた、と気づいた瞬間にすぐタクシーを呼ぶなりして切り替えればよいものを、「もう少し歩いたら駅に着きそう(間違い)」「ちょっと先に見えるお店が気になるから行ってみよう(閉まっている)」という愚行を繰り返しているうちにいつのまにか一時間くらい歩き続けていた。

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気になったけど閉まっているなぞの店たち

 

そうこうしているうちに飛行機の時間が近づいてきたため、もうカロスキルはあきらめて空港へ向かうことにした。せっかくソウルまで来たのに何もしてなくて、貴重な時間をむだにしている感じがすごい。

しかしふだん座りっぱなしの生活を送っているためか、歩き回って体を動かしたことで妙に気分がハイになり、不思議とそのときは前向きな気持ちだった。

これを書いているのは火曜日の夜中だが、今週はいつになく毎朝さわやかな気持ちで目覚め、仕事に向かうことができている。何もしてないなりにリフレッシュにはなったのだろうか。

なぜ時間を無駄にしてしまうのか

振り返ってみれば韓国一泊二日はちょっと短すぎた。実質のフライト時間は一瞬だけれど、空港には余裕を持って到着しなければいけないという制約があり、時間に追われて焦ったことで判断を誤ったのではないかという感じがする。

初めてのくせにガイドブックや情報サイトに載っているような観光スポットにも全然行けていないが、そのわりには良い気分転換になったのでよしと思うことにしよう。

わたしの人生はだいたいこんなかんじだ。その時々の気分で行動し、たとえ客観的に見てどうであっても、自分の感情さえ納得させることができれば幸せなのだ。

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空港のカフェで飲んだタピオカ

 

オンライン免税店で爆買いをする日本人

空港といえば、近頃は旅行前に免税店で欲しいものをあらかじめオンライン予約しておき、帰国時に引き取れるサービスがあるらしい。と、韓国コスメの輸入業者をしている知人から聞いたので利用してみた。なんて便利な世の中になったことでしょう。なぜかいつもセールをやっていて安いし、荷物も増えないのがとてもよい。

ただ「せっかくの機会だから韓国コスメをいろいろ試してみよう」と言い訳ができてしまう上、出国前までならいつでも好きなタイミングでポチれるので、つい買いすぎてしまうのは問題だ。 

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免税で買ったものは全部で26000円くらいだった。どれも単品では日本円で1000円〜2000円以下の価格帯だったはずなのだけど、明細をよく見ると韓国と関係なくずっと憧れていたので買ってしまったデプティークのルームスプレーが一番高価で、4000円もしている。

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枕もとに飾られるルームスプレーのようす

 

使ったお金

今回のお小遣い帳は以下の通り。

 

  • 航空券 22700円
  • ホテル 6600円
  • ミュージカルチケット 13900円
  • 免税店 26000円
  • 食事 1000円
  • お土産・交通費 7000円
  • 合計 77200円

 

ご飯を全然食べなかったので(夜食と朝食をゲストハウスのご主人に出してもらったためお腹がいっぱいになってしまった)旅行して散歩するだけなら3万円くらい。どうせ寝るだけなのだから、もうちょっと安いところに泊まって2泊した方が絶対に良かったと思う。

 

それにしても、空港⇔街中の移動時間がロスタイムになってしまうことを除けば、ソウルはほとんど東京と同じ感覚でふらふらと行ける。むしろ異国の開放感で、東京より自由になる感覚すらある。

今回心残りは多大なので、寒い季節が終わったらまた行きたいなあ。