耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

「ライムライト」シアタードラマシティ

一幕のとちゅうから、石丸さんのちょっとした表情や、たたずまいを見るだけで涙があふれてどうしようもなかった。視線の落とし方、背中の曲げ方、歩き方、おどけた姿なのに物悲しいところ……。どうしてこんなにも、わたしたちがあらがえないなにか大きなものに対して、ひたむきでいられるんだろう。苦しみながら、おどけて見せながら。カルヴェロに肩を叩かれ励まされるテリーの姿は、そのままわたしの姿でもあった。寂しくて、だけど、幸福な涙だった。

「お前たちはおれを孤独にする」という台詞があって、その文脈から、わたしは客席で嗚咽を噛みころすのに必死だったくらいに泣いてしまったのだけど、だってこんなにやさしい人ばかりに囲まれても、やっぱり人は孤独なんだって思ってしまったから。

だけど、石丸さんのカルヴェロはそれを知っていても幸せそうに死んでいく。やさしい人に囲まれて、たしかに愛されていることを感じながら。それなら、その孤独も含めてそれでも、人生が、そしてかれが自分で最後まで歩き切った生きる道が、肯定されている気がして。わたしのささやかな人生のなかでも、この作品と、それを演じている石丸幹二さんというひとを観ることができたのは本当に幸せだった。

カーテンコールで出て来られた役者さんも演奏家さんも人数が少なくて、一人がいろんな役をこなされている側面もあったのに、ひとつひとつの役割が丁寧で印象的なのも素敵だった。ただ、舞台の上を通り過ぎるだけの人間にだって、それだけの人生があるんだよって言われているみたいで。この物語を作っているのが役と同じ年代の舞台人たちだということにまたぐっときてしまう。

ミュージカルのように歌で感情が説明されるようなタイプの劇とはちがうけれど、舞台上から奏でられる繊細な音色が、ふと耳に入って来た瞬間、心に浮かぶ感情に寄り添ってくれるようだった。