耳をすますナツメグ

だれもみてない、ほら、いまのうち

2018年1月の読んだ本

1月は『アンナ・カレーニナ』の月だった。あらゆる媒体でちょくちょく言及があるので読みたい読みたいとは思っていたものの、長いので手に取るまでに「えいやっ」という気合が必要で、おまけにロシアの話だから寒くないと気分も上がらない。というわけで年末年始のタイミングに。

だが読み始めればあっという間だった。『戦争と平和』よりも、トルストイ歴史観が語られることがなくひたすら物語に没頭することができる分、とっつきやすい。あらすじはその気になれば三行でまとめることが可能だが、中身をまとめることはできない。小説とはその細部の魅力のことをいうのだとつくづく実感する小説。

 

 

1月の読書メーター
読んだ本の数:5
読んだページ数:2871

アンナ・カレーニナ〈上〉 (新潮文庫)アンナ・カレーニナ〈上〉 (新潮文庫感想
キチイ、リョーヴィン、そしてアンナ。自分に誠実に生きようと努めるすがたは痛くも青く、眩しい。何の疑問も抱かずなりたい他人になれてしまうよりも、設計通りにトントン拍子にうまくいくよりも、挫折した人生のほうが時に魅力的。それが悲劇に終わらない限りにおいては。
読了日:01月02日 著者:トルストイ


文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫感想
祖先を同じくするわたしたちは一体どうしてこれほどまで異なっているのか。一方の民族が他を圧倒した手段である「銃・病原菌・鉄」を、持ち得た集団とそうでない集団が異なるのは、気候や環境要因により定住型農耕生活から移動型の狩猟採集生活に移行する必要性が「いかに早く」生じたかの違いであった。この壮大な問いに答えるために提示される、先史時代にから近現代にいたるまでの人類の集団生活のあらゆるパターンもおもしろい。まったく別の生活環境におかれた、自分のようなだれかがどんな人生を送ったのか想像してみるのも楽しいのだ。
読了日:01月07日 著者:ジャレド・ダイアモンド


アンナ・カレーニナ〈中〉 (新潮文庫)アンナ・カレーニナ〈中〉 (新潮文庫感想
カレーニン氏は妻の、リョーヴィンは兄の死にそれぞれ接し、みずからの生き方を変質させる。限りある生の価値に気づくことで自分自身を取り戻す。一方アンナの精神は目の前の出来事やひとときの感情によってぐらぐらと揺れ動き、神なき時代の女性といった印象。毅然と意思を通すところは美しいが、惹かれはしない。ヴロンスキーへの感情は、最初から孤独から逃れる手段でしかなかったのかもしれない。
読了日:01月16日 著者:トルストイ


アンナ・カレーニナ〈下〉 (新潮文庫)アンナ・カレーニナ〈下〉 (新潮文庫感想
いちばん自然に、他者を愛することから幸福を得られるように、多くの人がそう思ったから善なるものが生まれたはずなのに、それは人間自身の変容を受け入れず闇へ閉じ込める鋼の鎖だ。なにが正しいのか知っていてその通りにできるのならそれは幸福な人。無意識に感じる生への恐怖を自覚できないでいられるのならその方がずっと良い。けれどリョーヴィンは疑いをもちつづけたがゆえに新しい地平を見ることができた。リョーヴィンの発見したものは、自覚的であろうとあるまいと、わたしたちが人類の叡智として受け継ぎ取り込み続けてきたものだ。今日的な視点からみれば、アンナの懊悩や決断に苛立ちを覚える人もあるかもしれない。もっと別の道もあったのではないか、と。彼女自身で仕事をもち自立することの許されていた社会なら運命は変わっていたのかもしれない、と思う。プライドの高い彼女が自分の意志を通せないといって憤り、とうに愛の冷めたヴロンスキーに依存し続ける以外の、選択肢もあったのだろうから。社交界の女性たちが夫と子を捨て男に走ったアンナを支持したり、非難したり、嘘ついて褒めそやしながら内心軽蔑したり、憧れる気持ちと軽蔑する気持ちを半々にいだいたり、さまざまな反応が描かれるが、いずれにせよ当時の社会で女性が「愛のために生きる」ことより「自分のために生きる」ことがずっと下に見られていたのだと思うと悲しくなる。チェーホフのコメント「問題は一つとして解決されていませんが、すべての問題がそのなかに正確に述べられているために、読者を完全に満足させるのです。(略)その回答は自分自身の光に照らして取出さなければならないのです」本書解説より。たしかに読んでいる間じゅうずっと、それから今も、別のことをしながらもアンナとこの本の登場人物たちの投げかけてくるさまざまな問いが頭のなかを次々と襲って離れない。
読了日:01月23日 著者:トルストイ


文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫感想
大陸ごとの発展の差異は生態系の豊富さや気候・地形環境に左右されるものであるという説を丹念に解き明かす。当初は些細な工夫のために生まれた発明がやがて広く使われるようになり、世界のありかたを変えていく。文字ですら、初めは詩や物語を語るためのものではなかった。私たちは未だに、何に使うのかわからない発明に首をひねり続けている、と思うとワクワクする。人間は、環境さえ整えば、放っておいても勝手に変化し創造する生き物なのだ。
読了日:01月31日 著者:ジャレド・ダイアモンド

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